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輸液動態学~臨床③ [anesthesiology]

Volume Kinetics for Infusion Fluids

Anesthesiology 2010年8月号より

ブドウ糖溶液

2.5%ブドウ糖溶液および5%ブドウ糖溶液を投与すると、酢酸リンゲル液と同程度に血漿量が増加する。しかし、5%ブドウ糖溶液投与後の血漿量増加作用は長くは続かない。なぜなら、ブドウ糖と共に投与された水分は、尿として排泄されるだけでなく細胞内へ取り込まれることによってVcからVtへと移動するからである。

腹腔鏡下胆嚢摘出術中に2.5%ブドウ糖溶液を投与した場合、ブドウ糖と水分のクリアランスは平時のおよそ1/3まで低下する。子宮全摘術後第1日の水分クリアランスは正常か、もしくは上昇するが(Cl=130mL/min)、ブドウ糖クリアランスは術中と同程度に低下したままである。

糖尿病患者では、2.5%ブドウ糖溶液の水分クリアランスは正常値(平均99mL/min)を示す。だが、腎機能低下患者のデータは得られていない。

高張液

ヒトでは生理的食塩水(0.9%食塩水)は乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液よりも血漿増量効果が10%ほど強力である。排泄が遅いことがその理由である。生理的食塩水と比べ、高張(7.5%)食塩水は4倍、6%デキストラン高張食塩水(HSD)は7倍の血漿増量効果を誇る。各製剤の血漿増量強度は、30分間で血漿量を20%増加させるのに必要な投与量によって評価されている。

高張食塩水は細胞内から瞬時に水を引き出す。そして、投与した高張食塩水とそれによって細胞内から引き出された水分は、15分で細胞外水分分画に分布する。クリアランスはナトリウム利尿の程度によって主に規定される。

ヒツジにはHSDの分布相があるが、ヒトにはない。HSDおよび生理的食塩水の血漿増量効果の差が、投与時間と密接に関連していることをFigure 8に示した。この図は、研究によってHSDの血漿増量効果がばらついていることの理由を説明するのに役立つだけでない。このコンピュータシミュレーションから、HSDは長時間投与にも適していることが窺われる。ただし、現状ではHSDはボーラス投与するように推奨されている。投与時間が延長するほど血漿増量効果の差が大きくなる理由は、人体がデキストランと余剰ナトリウムを排泄するのは容易ならざることであるという事実から理解されよう。

膠質液

6%デキストラン70や5%アルブミンなどの膠質液は、予測血漿量と同等の大きさを持つ単一体内水分分画を増大させる。

帝王切開に対する脊髄クモ膜下麻酔の際に、3%デキストラン70を投与するとVcからVtへと緩徐に分布する。デキストランの作用のせいでこのようなゆっくりした分布が認められるものと考えられる。だが、3%デキストランのClrは、酢酸リンゲル液のClrと同等に小さい(8-16mL/min)。

ハイドロキシエチルスターチ130/0.4を腹腔鏡下胆嚢摘出術中に投与し、その4時間後に酢酸リンゲル液を投与すると、酢酸リンゲル液の消失速度は大幅に上昇する。Clrも上昇するが、血管内からの消失速度よりは上昇幅は小さい。この研究から分かることは、膠質液が先行投与されている場合、術後に酢酸リンゲル液を投与しても血漿増量効果はほとんど期待できず、むしろ組織の浮腫形成を促進したり、尿中排泄を増やしたりするだけであるということである。

教訓 生理的食塩水は乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液よりも排泄が遅いため、血漿増量効果が10%ほど強力です。生理的食塩水と比べ、高張(7.5%)食塩水は4倍、6%デキストラン高張食塩水(HSD)は7倍の血漿増量効果を示します。膠質液が先行投与されている場合、術後に酢酸リンゲル液を投与しても血漿増量効果はほとんど期待できず、むしろ組織の浮腫形成を促進するおそれがあります。
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