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輸液動態学~臨床① [anesthesiology]

Volume Kinetics for Infusion Fluids

Anesthesiology 2010年8月号より

臨床と深い関わりのある主要結果

分布相

乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液などの等張または概ね等張の晶質液の分布相は、25-30分で完了する。

通常、投与量の20-25%が血管内に残ると言われているが、実際の等張晶質液投与による血漿増大量はこれより大きい。血中残存率には大きなばらつきがあることが複数の研究で明らかにされている。血管内容量正常の健康被験者に酢酸リンゲル液2Lを30分で投与したところ、投与終了時に投与量の50%が血中に残っていた。別の研究では、1.1Lを10分で投与したとき、および2Lを20分で投与したときの血中残存率は65-70%であった。そして、全身麻酔下TUR-Pの術中に酢酸リンゲル液を持続投与した場合の、血中残存率の平均は60%であった。

投与された輸液製剤の血中残存率は、投与速度が遅いほど高く、投与時間が長いほど低くなる。経験的には、30分の急速輸液終了時における血漿増大量は、VcとVtの間の水分分布が極めて短時間で完了するとした場合に予測されるよりも50-75%ほど大きい。

健康被験者および手術患者における水分分布の様態をFigure 6に示した。リンゲル液が比較的ゆっくりと分布するということが分かる。この点は臨床的に重要である。なぜなら、投与を中止しない限り、従来考えられてきたよりも実は晶質液が好ましい血漿増量剤であることを意味するからである。加えてこの図から、急速ボーラス投与よりも緩徐に投与する方が血漿増量には効果的であることも分かる。

術中の排泄クリアランスは低い

等張晶質液の排泄クリアランス(Cl)は、患者に意識があるか、麻酔がかかっているかによって大きく左右される。体内水分量の多寡、ストレスや外傷の有無などの要因によっても、排泄クリアランスは変化する。

健康被験者のクリアランスは60-110mL/minであり、排泄速度が極めて速いと考えられるため、1分画動態モデルが適している。意識のある健康被験者におけるクリアランスのばらつきは、輸液投与前の体内水分量の差に起因すると思われる。輸液を繰り返すと、排泄効率がやや上昇するのが正常な反応である。一方、出血があると、血管内容量を晶質液で直ちに是正しても、クリアランスが25-50%低下する。出血量が増えるほど低下幅も大きくなる。

甲状腺、腹腔鏡および開腹術中の排泄クリアランスはさらに低い(table 2)。この場合、腎クリアランス(Clr)はわずか5-20mL/minにまで低下する。言い換えると、手術中に投与した輸液製剤のうち2時間以内に排泄されるのは投与量の5-15%に過ぎないのである。健康被験者では40-75%が2時間以内に排泄される。異なる2種類の膠質液(6%デキストラン70および5%アルブミン)を健康被験者に投与した場合の半減期はそれぞれ2.5時間であることが分かっている。晶質液を術中に投与した場合の半減期(2Vc/Clという式から求められる)は、この2.5時間よりもかなり長い。晶質液の方が半減期が長いのは、主として内分泌系の変化の違いによるものと考えられる。また、血管拡張によるヘモグロビン濃度のドリフトも関与している可能性がある。

クリアランスが低ければ血漿増加率が上昇する。そして、意識のある健康被験者ではすぐに排泄されて問題にならないような輸液量であっても、クリアランスが低ければ投与された輸液製剤が間質浮腫を形成する危険性が浮上する。したがって、尿量を監視しても輸液量過多を判断する役には立たないと言える。排泄クリアランスが低ければ、血管内容量が明らかに過剰である状況でも、尿による排泄はほとんど増えないからである。

排泄クリアランスが極度に低下した状態は長くは続かない。腹腔鏡下胆嚢摘出術を受けた患者では、手術後わずか4時間でクリアランスが手術前日と同等のレベルに回復するとされている。だが、外傷(大腿骨骨折など)の手術症例のクリアランスについて年齢と性別をマッチングさせた対照群と比較したところ、手術翌日になってもクリアランスは対照群のわずか半分程度にとどまるという結果が得られている

教訓 等張晶質液の分布相は、25-30分で完了します。晶質液投与量の20-25%が血管内に残ると言われていますが、実際の等張晶質液投与による血漿増大量はこれを上回ります。健康被験者では輸液量の40-75%が2時間以内に排泄されますが、手術中に投与した輸液製剤のうち2時間以内に排泄されるのは投与量の5-15%に過ぎません。
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