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輸液動態学~理論③ [anesthesiology]

Volume Kinetics for Infusion Fluids

Anesthesiology 2010年8月号より

モデルの選択

1分画モデルと2分画モデルのどちらを適用すべきかを決定するには、F検定などの統計学的検定が役立つことがある(appendix 2)。そして、モデル予測尿量と実測尿量が一致するようにするのも有用である。

最も望ましい状況は、同じモデルから得られたパラメータ予測値を比較できる場合である。幸い、大半の手術患者では2分画モデルが適している。反対に、健康被験者では2分画モデルが適していることが多いものの、そうではない被験者もいるのでパラメータ予測値の比較が困難である。しかし、我々が2003年以降に発表したすべての論文の結果は、いずれも単一の同じモデルに従って導かれたものである。単一の同じモデルを用いるにあたり、2分画モデルを簡易化する手順をとる場合があった。

Drobinらが開発した変法では、容量増大の割合ではなく絶対値が用いられる。Vt分画が存在することは考慮にいれつつも、その大きさは評価対象ではない。そして、尿量が非常に多く通常であれば1分画モデルが適しているような場合であっても、ほぼすべての実験において2分画モデルによる解析が行われる。

検体採取が短時間(3時間未満)しか行われないときには、従来式の2分画モデルを別の方法で単純化して解析が行われることが多い。Vtを非常に大きい固定値(体重に近いぐらいの値)に設定すれば、VtからVcへの水分移動を無視することができる。この場合、Cl=Clrという仮定の有無に関わらず、短時間手術であってもVcおよびCldの予測値の信頼性は高い。

ノイズの多いデータに対処するため、全実験で1分画モデルのみを用いたり、全被験者のデータを一堂に集めて解析を一緒に行ったりする手法がとられている(fig. 3)。

同じ方法で簡便化したモデルの枠組みの中でしか、パラメータ予測値を比較することはできない。

輸液動態モデルの応用

前述の二つの基本的な輸液動態モデルを発展させ、特定の問題を解明することを目的とした方法が色々と開発されている。その例が、集団輸液動態や輸液代謝回転動態である。

麻酔導入が輸液動態に及ぼす影響の研究では、実験途中の急激な生理的変化を勘定に入れたモデルが用いられる。そして、同一患者における生理的変化前後の動態が比較されるのである。

また、高張液を投与する場合は、モデルをわずかに変更することで浸透圧の高い水分の移動を考慮した解析を行うことができる(appendix 4)。このような用途のため、3分画モデルが作成されている。

溶質は水分を間質へと分布させるよう促す力を発揮する。その例が、ブドウ糖溶液である。ブドウ糖溶液を投与した場合は、細胞に取り込まれたブドウ糖が浸透圧により水を細胞内に引き込むことを踏まえ、ブドウ糖の動態解析と水分の動態解析を併せて行う。すると細胞の容量変化をモデル化することができる。細胞内に引き込まれた水分はVtに由来するため、ブドウ糖のクリアランスおよび発汗量が正常である限り、Vtの増大を把握することは困難である。

「サードスペース」なるものの存在については疑義が呈されている。しかし、零次反応定数Cl0のコンピュータ予測値を用いれば、2つの機能的水分分画(VcおよびVt)から第3の非機能的水分分画への不可逆的な水分喪失の量を求めることができる。非機能的水分分画への水分喪失は、傷害組織、腹腔内および消化管内に貯留した水分量と発汗量に当たる可能性がある。「サードスペース」への水分喪失を勘定に入れて解析を行う場合は、ヘモグロビン濃度および尿量データの正確さがとりわけ厳しく要求される。

カテコラミン投与中の輸液療法ではヘモグロビン濃度基準値が安定しない(ドリフトする)ことがある。この場合Cl0の予測値を求めておけば、ヘモグロビン濃度のドリフトを踏まえた解析を行うことができる。

ヒツジに7.5%食塩水を投与して行った実験では、血清ナトリウム濃度の上昇を指標にした輸液動態モデルが用いられた。

ナトリウムを含有しない輸液製剤(マンニトールなど)を投与した場合は、血清ナトリウム濃度の低下を1分画モデルで解析するのが適している。ナトリウム利尿の影響についての補正を行って得られたVの大きさは、細胞外水分分画の大きさと近似する。

血漿タンパクの毛細血管からの漏出を評価することも可能である。血漿タンパクは間質へ移動するが、ヘモグロビンは血管内に止まる。血漿中のタンパクとヘモグロビンの希釈度合いの差から、漏出した血漿タンパクの総量が分かる(fig. 4)。この漏出血漿タンパクの総量は容量増大分と血漿タンパク濃度の積によって算出され、重量(または単位時間あたりの重量)で表される。漏出タンパク量は、質量保存の法則に基づき計算して求めることもできるが、この方法ではシミュレーションを行うことはできない。

教訓 大半の手術患者では2分画モデルが適しています。高張液が対象のときは3分画モデルが用いられることがあります。ナトリウムフリーの輸液製剤を投与した場合は、血清ナトリウム濃度の低下を1分画モデルで解析します。
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