SSブログ

輸液動態学~理論② [anesthesiology]

Volume Kinetics for Infusion Fluids

Anesthesiology 2010年8月号より

生理学との相関

2分画動態モデルは、Vcは血漿量、Vtは間質水分に相当するものと想定して設計されている。そして、容量増大分が各体内水分分画に分布することによって、それぞれの分画の静水圧と膠質浸透圧が変化する。Cldは、体内の各部位における血流の差および毛細血管透過性の差を反映しているものと考えられている。投与された輸液は腎臓によって排泄されるので、近似曲線を描いて得たClの予測値は、腎クリアランス(Clr)と一致するはずである。しかし、この予測値は生理学的変数を直接測定した得た値ではなく、むしろ、投与された輸液を体が実際にどうやって処理しているのかという、機能の動向を指し示す指標である。

Vcの容量は3-4Lである。この値は、血漿量の予測値および実測値とほぼ同等である。Vcを動脈血ヘモグロビン濃度から算出した場合、静脈血ヘモグロビン濃度から算出したときよりもわずかに大きくなる。

体重70-80kgの成人男性におけるVtの容量は6-8Lであり、間質水分分画の予測容量よりも小さい。臭素などの標識イオンを用いて水分分画の容量を測定する場合と異なり、輸液動態学では体内水分分画のうち増大したり減少したりする分画のみを扱う。すなわち、体内分画によっては(骨など)輸液動態学を当てはめることができない。また、容量が極めて増大しやすい組織もあれば、たくさんの輸液を投与しなければ増大しない組織もある。したがって、Vtは大量輸液を行ったときには上記の値より大きくなる可能性があるが、通常の輸液速度および輸液量では上記の値と変わらない。一般的に、Vt予測値の精度はVcの場合よりも劣っている。

1分画モデル

血漿の希釈-時間特性は、2分画モデルで典型的に認められるような二相性の指数関数曲線を呈しないこともある。投与した輸液が単一分画にのみ分布すると仮定するならば、近似曲線を用いる方が実態をよく反映する可能性がある(appendix 2)。健康被験者にデキストラン70などの膠質液を投与した場合には、単一分画に分布すると仮定したこのモデルが当てはまる。1分画モデルは、排泄が迅速であるならば晶質液にも適している。健康被験者では排泄が速いので1分画モデルが当てはまる。このモデルが立脚する理論は、Cl/Cld比が大きいほど、輸液が投与されてから排泄されるまでにその投与された輸液がVtに分布する時間が短くなり、そして、Vcと一部増大したVtは中間的な大きさの単一水分分画を併せて形成するというものである(fig. 3)。

解析を成功させるための条件

輸液動態解析を行う場合、輸液製剤の一番よい投与方法は30分間の急速静注である。晶質液であれば、20-25mL/kgを投与すべきである。投与量が少ないとノイズの多いデータになってしまう。血液検体採取は、3時間にわたって繰り返し行う(場合によっては4時間)。ヘモグロビン濃度の測定には高い精度が要求される。変動係数1%程度の精度であることが重要である。血液ガス分析器によるヘモグロビン濃度測定では、この精度に達することはないことがほとんどである。検体間の変動をできる限り抑えるには、正確な検体採取と精度の高い測定法を徹底するべきである。

2分画モデルでは用いるデータの質が高くなければならない。なぜなら、4つのパラメータ(Vc、Vt、ClおよびCld)を評価するからである。排泄速度が遅ければ、水分がVtに分布したのか、モデルで想定されたシステム外へと排泄されたのか(これはClに当たる)を判別するのが難しくなる。そのため、尿量を測定して算出される腎クリアランスをClと見なすことがある(appendix 2)。この場合は、最小二乗法で評価すべきパラメータは3つ(Vc、Vt、およびCld)に減るので、より安定したモデルで解析を行うことができる。この手法は、検体採取が3時間未満しか行われなかったときにも有用であることが多い。

1分画モデルでは、評価するパラメータが2つだけなので(VおよびCl)、2分画モデルより堅牢なモデルである。晶質液を投与した場合は、3時間以内に投与前のヘモグロビン濃度へと戻るはずである(fig. 3A)。一方、膠質液であれば、排泄相が晶質液よりもずっと長い。

データ採取中は、生理的変化が極力起こらないようにしなければならない。例を挙げると、体位変換や、全身麻酔の終了によってもヘモグロビン濃度は変化する。利尿を来したり、アドレナリン受容体の活性を変化させたりする薬剤をデータ採取開始後に使用すると、結果に影響が及ぶ。

出血量が分かる場合は計算に入れる(appendix 3)。

教訓 輸液動態解析を行う場合、晶質液であれば、20-25mL/kgを30分で投与します。血液検体採取は、3~4時間にわたって繰り返し行い、ヘモグロビン濃度を正確に測定します。血液ガス分析器によるヘモグロビン濃度測定は精度が低いので適しません。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。