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集中治療文献レビュー2010年7月② [critical care]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年7月号より

Use of procalcitonin to reduce patients' exposure to antibiotics in intensive care units (PRORATA trial): a multicentre randomised controlled trial

Lancet 2010; 375: 463-74

多剤耐性菌は、ICU患者の転帰を著しく損ねる。抗菌薬の投与を細菌感染が確実である患者だけに限定したり、投与期間を短縮したり、もしくはこの両者を併せて実施すると、抗菌薬使用量が減少し、薬剤耐性の発生を抑制することができる可能性がある。プロカルシトニンは、感染または敗血症の存在を反映するバイオマーカの一つである。このようなバイオマーカを測定すれば、抗菌薬の処方スタイルの変更によって期待される効果と同じように、抗菌薬投与量が減るとともに、抗菌薬の有効性が向上するのではないかと考えられる。

本研究は多施設前向きオープンラベル並行群間比較試験である。細菌感染が疑われ、ICUに3日以上滞在することが見込まれる成人ICU患者を無作為にプロカルシトニン群(311名)または対照群(319名)に割り当てた。割り当て群に従った手順が開始される時点までは評価者はどちらの群に患者が割り当てられているかを関知しなかったが、開始時点以後は評価者にも無作為化割り当ての結果が知らされた。プロカルシトニン群では、予め設定したプロカルシトニン濃度のカットオフ値を基準に、抗菌薬投与の有無を決定した。対照群では、現行のガイドラインに基づいて抗菌薬投与の有無を決定した。使用する抗菌薬の種類の選択および、抗菌薬投与開始または中止の最終判断は、治療担当医の裁量に任された。28日後および60日後死亡率と、第28日までの抗菌薬非投与日数を算出した。

ICU入室理由は、大半が内科系疾患であった(プロカルシトニン群90%、対照群89%)。プロカルシトニン群の28日後死亡率(21.2% vs 20.4%)および60日後死亡率(30.0% vs 26.1%)は、対照群と比較し非劣性であった。プロカルシトニン群の方が対照群と比べ抗菌薬非投与日数が有意に少なかった(14.3日vs 11.6日)。感染再発率(6.5%、5.1%)およびICU滞在日数(15.9日、14.4日)は両群同等であった。

解説
院内肺炎における抗菌薬治療の成否を評価するのに、プロカルシトニンが有効であることが明らかにされている。本研究では、ICU患者において、プロカルシトニンを繰り返し測定し抗菌薬投与の開始や中止を決定する方法を行うと、死亡率の上昇を見ることなく抗菌薬治療期間を短縮させることができるという結果が得られた。内科系以外のICU患者でもこのような抗菌薬療法を行い抗菌薬の使用量が減れば、抗菌薬の選択圧が減弱する。さらに、医療費の低下にもつながる可能性がある。プロカルシトニン濃度を指標とした抗菌薬投与法が、他の感染治療プロトコルと比べ優れているのかどうかを明らかにするのが、今後の課題である。

Association Between Acute Care and Critical Illness Hospitalization and Cognitive Function in Older Adults

JAMA. 2010;303(8):763-770.

重症疾患から回復し生存する患者の数が増えている。その理由は、重症疾患の発生頻度の上昇、人工呼吸の洗練および社会の高齢化である。重症疾患が長期にわたる認知機能障害の原因となることが多くの研究で示されている。しかし、こういった研究では、発症以前の認知機能が評価されていない。

調査開始時点において痴呆を発症していない65歳以上の2929名を対象とした前向き縦断コホート研究が現在進行中である。この研究で得られたデータを基に、高齢者における急性疾患または重症疾患による入院と、認知機能低下および痴呆発生の関連が検討された。対象者を2年ごとに訪問し、認知能力検査(Cognitive Abilities Screening Instrument;CASI)を行った。86点未満であった場合には臨床評価による痴呆の診断が実施された。

調査開始後に入院経験がある群と、マッチングした入院歴のない群を比較すると、入院歴がある群の方が認知機能の低下傾向が強く認められた。重症ではない疾患による入院は、痴呆の発症と有意な相関を示した。

解説
この長期前向き追跡調査では、加齢、入院および重症疾患が、認知機能の長期的な低下を引き起こすことが明らかにされた。重症疾患は、低酸素血症、低血圧、譫妄、鎮静薬および睡眠障害などの様々な事象を発生させる。こうした様々な原因によって長期的な認知機能低下が出来する。非重症疾患による入院が痴呆を引き起こす原因は、未解明である。重症疾患によりICUに入室する高齢者が増えている現況に、この研究結果は一石を投ずることになった。

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