SSブログ

麻酔文献レビュー2010年7月② [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年7月号より

Scoliosis Surgery in Children With Neuromuscular Disease: Findings From the US National Inpatient Sample, 1997 to 2003

Arch Neurol. 2010;67(2):231-235.

神経筋疾患のある小児では、側彎が進行し手術を要することが往々にしてある。しかし、神経筋疾患児の側彎症手術は、合併症および死亡のリスクが高いことが知られている。遡及的研究では、用いられている疾患概念が統一されていないため、神経筋疾患患者における側彎症手術による合併症の発生状況が不正確に捉えられている可能性がある。一方、前向き研究を行うには、時間も費用もかかるという障壁がある。

ここに紹介した遡及的研究では、小児入院症例抽出調査のデータを用い、神経筋疾患のある小児の側彎症手術実施症例について、人口統計学的因子、併存疾患、転帰および医療費が検討された。

側彎症手術を目的とした入院症例全体(17780例)のうち、神経筋疾患のある患児は2.5%を占めた。神経筋疾患以外の原因による側彎症の患児と比べ神経疾患による側彎症の患児の方が、年若く(12.4歳 vs 14.2歳)、男児が多く(73.5% vs 38.3%)、白人が多く(71.2% vs 68.3%)、メディケイド受給者の占める割合が高かった(35.6% vs 20.3%)。神経筋疾患患児の方が有意に入院期間が長く(10.3日 vs 7.7日; P<0.001)、入院医療費が高額にのぼり(80,251米ドル vs 62,154米ドル)、死亡率が高かった(1.6% vs 0.2%; P<0.001)。神経筋疾患患児の方が、呼吸器疾患、慢性呼吸不全および心筋症を基礎疾患として抱えている者が有意に多かった。

解説
側彎症手術を受ける小児患者では、神経筋疾患を合併していることが多い。神経筋疾患は周術期リスクを増大させると推測されている。側彎症手術を受ける患者を、神経筋疾患の有無によって分類して解析したこの研究では、神経筋疾患のある患者の方が、神経筋疾患以外の併存疾患の数が多く、周術期における呼吸器および循環器合併症発生率が高いことが明らかにされた。さらに、医療費、入院期間および死亡率も上回っていた。神経筋疾患患者の側彎症手術に際しての合併症を減らすため、なお一層の努力を払う必要がある。

Perfusion computed tomography in the acute phase of mild head injury: regional dysfunction and prognostic value.

Ann Neurol.2009 Dec;66(6):809-16.

外傷性頭部傷害症例の大多数は、軽症例に分類される。しかし、軽症例であっても長い場合は受傷後6ヶ月経過しても後遺症に苦しむ場合がある。単純CTで何ら異常のない軽症から中等症の頭部傷害症例のうち、およそ20%の患者において職場復帰に当たり問題が生ずる。したがって、このような患者を早い段階で同定するための診断技法の向上が求められている。

本研究では、単純CTで頭蓋内病変が認められなかった軽症頭部傷害症例に対し、急性期に灌流CT(perfusion CT)も併せて行った。脳血流の異常の有無を評価し、perfusion CTの所見および頭部傷害の重症度と6ヶ月後転帰のあいだに相関があるかどうかを前向きに検証した。脳血流データは、25名の健康被験者のデータと比較して評価した。

対象となった患者76名の平均年齢は35.0歳で、平均GCSは14点であった。GCSが満点(15点)ではなかった患者は、健康被験者と比べ、前頭葉皮質および後頭葉皮質の脳血流量と、後頭葉皮質の脳血液量が有意に少なかった。このように脳血流量や脳血液量が少ない患者では6ヶ月後転帰(extended Glasgow Outcome Scale; EGOS)が芳しくないという相関が認められた。完全職場復帰を果たした患者の割合は59%にとどまった。完全職場復帰を達成した患者と比べ、職場には復帰したものの受傷前より簡便な仕事しかできない状態であった患者の方が、前頭葉皮質の脳血流量が有意に少なかった。

解説
軽症頭部傷害患者の多くは、受傷後早期の単純CTでは正常所見を呈するが、長期的に見ると回復が不十分であったり、長引いたりする。本研究ではperfusion CTを実施し、脳血流に異常がある患者を同定し、そのような患者では受傷6ヶ月後の転帰が不良であることを明らかにした。脳血流量の評価を行うことが、予後診断精度の向上に止まらず、診療そのものの変容につながるかどうかは分からない。

Bacterial Meningitis After Intrapartum Spinal Anesthesia-New York and Ohio, 2008-2009

MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2010; 59: 65-9

ガイドラインを遵守すれば、脊髄クモ膜下麻酔後の細菌性髄膜炎などの感染性合併症は予防することができると考えられている。医療感染管理諮問委員会(HICPAC)が先頃発表したガイドラインでは、脊髄クモ膜下麻酔実施時にはサージカルマスクを着用することが推奨されている。だが、過去2年間に5件もの分娩後細菌性髄膜炎発生例が報告されている。

本報告では、髄膜炎症状が出現し、培養検査でStreptococcus salivariusが検出された症例(5例中4例)が紹介されている。いずれの患者も元来健康で、年齢は24-37歳であった。全例が陣発のため入院に至った。入院先は二ヶ所の異なる病院であった(3名がニューヨークに所在する病院、2名がオハイオに所在する病院)。特定の2名の麻酔科医(ニューヨーク、オハイオそれぞれ1名ずつ)のいずれかによって脊髄クモ膜下硬膜外併用の鎮痛法が行われ、全員が健康な児を分娩した。産後、頭痛、倦怠感、昏迷、背部痛、硬直、吐き気、嘔吐などの症状が出現した。麻酔科医2名のうち1名はいつもマスクを着用していると申告した。しかし、脊髄クモ膜下麻酔実施の際に、マスクを着用していない者が同じ室内に立ち会っていたことが判明した。もう1名の麻酔科医には脊髄クモ膜下麻酔時にマスクを着用していなかった。この麻酔科医からはS. salivariusが検出された。髄膜炎による死亡例は、この麻酔科医が脊髄クモ膜下麻酔を行った症例であり、S. salivariusが起因菌であった。

解説
陣痛に対する脊髄クモ膜下麻酔実施後にS. salivariusによる髄膜炎が相次いだ2ヶ所の事例を解析した結果、感染伝播経路に麻酔科医の口腔内細菌が関わっていることが判明した。2ヶ所のうち1ヶ所では、麻酔科医がマスクを着用していなかった。脊髄クモ膜下麻酔を実施するに当たっては、マスクを正しく着用し、無菌操作を徹底し、安全な注入手順を遵守しなければならない。

コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。