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麻酔文献レビュー2010年7月① [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年7月号より

Comanagement of Hospitalized Surgical Patients by Medicine Physicians in the United States

Arch Intern Med. 2010;170(4):363-368.

周術期管理に内科医(総合診療医または内科系専門医)が参加すると、効率が向上し(例えば手術実施までの期間短縮)、有害転帰が減少する(例えば、術後合併症の減少、入院期間の短縮、再入院率の低下)ことが明らかにされている。だが、外科医と内科医の共同患者管理がどれぐらいの頻度で実施され、どのような患者群が共同管理の対象となることが最も多いのかは分かっていない。

1996年から2006年までのあいだに、入院を要する手術15種のうちいずれか一つを受けた出来高払い制メディケア受給者(n=694,806)を対象とした遡及的コホート研究を行った。対象となったメディケア需給患者のうち、入院中の周術期管理を内科医(総合診療医または内科系専門医)と外科医が協同で行った患者の割合を算出した。協同管理の定義は、入院日数の70%以上の日数において患者評価および管理について内科医が見解を表明している場合とした。

対象患者全体のうち35.2%の症例で、内科医が参加する周術期協同管理が行われていた。この割合は1996年から2000年までの間はほとんど変化していなかったが、それ以降急激に増加した(年11.4%の増加)。高齢女性患者、複数の基礎疾患を持つ患者、社会経済的に下層階級と位置づけられる患者、教育を行わない中規模病院(200-499床)または営利を目的とした病院に入院した患者では、協同管理が行われる傾向が強かった。研究全期間を通じ、整形外科手術を受ける患者群では協同管理実施割合が有意に増加したが(42%)、心臓を含む胸部手術を受ける患者では低下した(12.5%)。

解説
昔は、術後管理を主に外科医が担っていた。多くの病院が利益追求圧力および人的資源効率化圧力に晒された末、外科系患者の管理を任せる目的でhospitalist(*)に代表される内科系医師を雇用するようになっている。1996年から2006年にかけて行われた本研究では、外科系患者のうちおよそ35%に対して、こういった内科系医師による協同管理が行われていることが分かった。その割合は2000年移行急速に増えている。外科系患者の周術期管理に内科医が関与する症例が増えていることは、麻酔科医にとっても大いに関心の湧くところである。

*hospitalistについて
米国において入院医療のうち内科系の部分を担う専門医。診療所を経営したり、外来で患者を診察したりすることはない。医学部卒業後、一般内科、一般小児科または家庭医学の分野の臨床研修を終えた後にhospitalistになるのが典型的な道筋。Hospitalistとして活動するには、ABIMのInternal Medicine with a Focused Practice in Hospital Medicineの認定が必要。通常、病院自体か病院が契約した会社に雇用される。平均年収は175000~250000米ドル。米国の内科医は従来、日本における病院勤務の内科医と同様に外来も入院もフルタイムでこなしてきた。しかし最近では、外来診療を主体に行う内科医と、入院患者のみを対象とするhospitalistの二種類に別れるようになってきている。Hospitalistの活躍の場は、中~大規模病院である。小規模病院にはhospitalistの需要がないか、もしくはhospitalistを雇用する財政的余裕がない。大半のhospitalistの勤務スケジュールは、週単位で構成される。一日の平均勤務時間は10~12時間で、連続5~7日勤務する。その後は、5~7日連続の休日となる。このように休暇が多いことが魅力の一つ。また、開業につきものの様々な業務(スタッフの雇用、請求業務、市場調査、宣伝など)とは無縁であることも利点と捉えられている。開業した場合よりも裁量権が少なく、他のhospitalistが辞めたときに新しく人員が充足されるまで(6ヶ月以上におよぶことも)は普段よりたくさん働かなければならないことが欠点。また、hospitalistの仕事は精神的疲労度が高く、同じ事の繰り返しで、人間味がないといって敬遠する者もいる。

Clinical and Economic Outcomes Attributable to Health Care–Associated Sepsis and Pneumonia

Arch Intern Med. 2010;170(4):347-353.

年間何百人もの患者に医療関連感染が発生し、患者の重症化、死亡率の増加、そして医療費増大につながっている。米国では年間約60万件もの入院症例に、医療関連肺炎もしくは医療関連敗血症が発生している。しかし、報告様式にばらつきがあるため、その経済的損失の正確な見積りは未だ行われていない。

本研究では、全国入院症例抽出調査(NIS; Nationwide Inpatient Sample)のデータを用い、退院記録を遡及的に調査した(40州における退院症例計6900万例)。その中から市中感染を除外し、医療関連感染(敗血症および肺炎)の占める割合を求め、関連する費用の検討を行った。市中感染の定義は、先行諸研究の基準に倣った。各評価項目の検討を行う際は、もともとの感染以外の病態に対して侵襲的手技が行われた症例と、侵襲的手技が行われなかった症例とは分けて解析した。今回用いた6900万例のデータベースのうち、医療関連敗血症または肺炎発症例は計557,957例を占めていた。

医療関連敗血症
侵襲的手技あり 入院期間 10.9日 医療費32900米ドル 死亡率19.5%
侵襲的手技なし 入院期間 6.0日 医療費12700米ドル 死亡率11.7%

医療関連肺炎
侵襲的手技あり 入院期間 14.0日 医療費46400米ドル 死亡率11.4%
侵襲的手技なし 入院期間 9.7日 医療費22300米ドル 死亡率4.6%

解説
この遡及的研究では、侵襲的手技の有無によって医療関連敗血症および肺炎症例を分類して解析が行われた。医療関連感染発症例は相当な数にのぼることが分かった。米国全体で医療関連感染に費やされる医療費は年間80億米ドルにも達し、48,000名が医療関連感染によって命を落としていることが明らかにされた。

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