SSブログ

急性肺塞栓~治療② [critical care]

Acute Pulmonary Embolism

NEJM(Published at www.nejm.org June 30, 2010)

血行動態が安定している患者を対象とした1編のオープンラベル研究では、血栓溶解薬を経静脈投与すると、未分画ヘパリンを投与したときよりも、臨床状態が悪化する患者の割合を減らすことはできるが(主に血栓溶解薬の再投与率の低下)、死亡率は減らないという結果が得られている。血栓溶解薬を経静脈投与した場合は、未分画ヘパリン投与例よりも迅速に右室機能障害の改善が得られるが、投与1週間後の右室機能障害の程度は同等であった。血行動態が安定している患者において、カテーテルによる血栓溶解療法に、血栓溶解薬の経静脈投与では得られない何らかの明らかな利点があることを裏付けるエビデンスはまだ示されていない。

血行動態が不安定な患者に対しては、薬理学的または機械的血栓溶解療法のような、もっと積極的な治療を実施する。血行動態が不安定な急性肺塞栓患者は死亡率が高く、また、抗凝固療法よりも血栓溶解療法の方が血栓塞栓子による閉塞を迅速に解除できることから、血栓溶解療法のような侵襲的な治療法が選択肢となるのである。治療を行わなければ死亡率は60%にものぼるが(右心系に血栓がある患者の死亡率はこれを上回る)、直ちに治療を開始すれば30%未満まで死亡率を低下させることができる。最新のメタ分析において、血行動態が不安定な肺塞栓患者では、血栓溶解薬の経静脈投与によって死亡率が低下することが明らかにされている。血栓溶解薬を使用する場合は、抗凝固療法と比較し、重篤な出血性合併症の発生頻度が高い。血栓溶解療法の主な禁忌は、頭蓋内病変、未治療の高血圧、大手術または外傷受傷後(過去3週間以内)である。

急性肺塞栓患者において、いくつかの異なる血栓溶解療法を比較検討する研究が重ねられているが、決定的な結論は得られていない。一回量を長時間かけて投与するのではなく、短時間(2時間以下)で投与する方法が推奨されている。なぜなら、その方が迅速に血栓を溶解することができ、かつ、出血性合併症の発生頻度も低いと考えられるからである。肺塞栓患者において、血栓溶解療法に加え抗凝固療法を行う際の抗凝固薬として使用経験が報告されているのは、未分画ヘパリン経静脈投与のみである。したがって、血栓溶解療法の実施が検討される患者では、当初の抗凝固療法として未分画ヘパリンを経静脈投与すべきである。経皮的機械的血栓除去(血栓粉砕および吸引)および外科的血栓除去の適応は、血栓溶解療法の絶対禁忌がある患者と血栓溶解療法を行っても血行動態の改善が得られない患者だけに限定すべきである。人工心肺を直ちに利用することができない状況では、外科的血栓除去の代わりに経皮的機械的血栓除去を選択する。症例報告を対象とした最近のメタ分析では、カテーテルによる血栓除去術の臨床的成功率は86%、この手技に起因する重篤な合併症の発生率は2.4%(95%CI, 1.9-4.3)であると報告されている。

大静脈フィルタの適応は、抗凝固療法が禁忌の患者に限るべきである。大静脈フィルタ留置患者では、血栓の増大や再発を防ぐため、抗凝固療法が禁忌となる原因(出血の危険性)が除去されたら型どおりの抗凝固療法を行うべきである。抗凝固療法の禁忌が存在するのが期間限定であったり、出血の危険性がある手技の実施が予定されていたりする患者では、抜去可能な下大静脈フィルタを選択することが可能であることが症例集積研究で示されている。しかし、抜去可能な下大静脈フィルタを用いても、実際にフィルタを抜去する例は増えないことが報告されている。

ビタミンK拮抗薬の投与は、できる限り早期に開始すべきである。できれば治療開始当日から始める。そして、24時間以上にわたりINRが2.0以上であればヘパリンの投与は中止する。

教訓 血行動態が安定している肺塞栓患者に血栓溶解薬を投与しても、未分画ヘパリンを投与したときと比較し死亡率は低下しません。翻って、血行動態が不安定な肺塞栓患者では、血栓溶解薬の経静脈投与によって死亡率が低下することが明らかにされています。血栓溶解療法の主な禁忌は、頭蓋内病変、未治療の高血圧、大手術または外傷受傷後(過去3週間以内)です。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。