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敗血症に対する免疫療法-年来の仇敵に対する新攻略法① [critical care]

Immunotherapy for Sepsis — A New Approach against an Ancient Foe

NEJM 2010年7月1日号より

敗血症性ショックは、病原性微生物の侵入に対する全身性炎症反応が過剰に発現した結果発生する病態であると捉えられている。敗血症の転帰を改善することを企図し、炎症を促進する作用のあるサイトカインやメディエイタの阻害薬を使った方法が試されてきたが、いずれも成功をおさめるには至っていない。強い病原性をもつ微生物に感染し、非常に激しい全身性炎症反応(たとえば劇症型髄膜炎菌血症症候群)を呈し急速に斃死する症例もある。しかし、大半の敗血症症例は、はじめの一山は乗り越えることができるものの、数日から数週間の経過の後には、敗血症による多臓器不全のためICUで管理されることになる。敗血症が免疫抑制を引き起こし、ただでさえ弱っている敗血症患者に追い打ちをかけるような事態が出来することが広く知られるようになってきた。

敗血症患者は、strenotrophomonas、アシネトバクター、カンジダ、緑膿菌、腸球菌、サイトメガロウイルスなどの、比較的病原性が弱く、往々にして多剤耐性である細菌、ウイルスまたは真菌に感染する頻度が高い。これが、敗血症によって免疫抑制が起こることの臨床的な裏付けである。耐性菌が増加し、新薬開発の具体的段階に突入する新しい抗菌薬の登場がほとんど見られない、といった状況のため、敗血症患者の管理はますます困難なものとなっている。敗血症は、病原体と宿主の免疫反応との鍔迫り合いとも言える。つまり、病原体は宿主防御能をいろいろな角度から攻撃し、防御を無効にしようとするのである。例えば、免疫エフェクター細胞がアポトーシスにより減少するように仕向けたり、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスⅡ分子の発現を抑制したり、T細胞のnegative pathwayに関わる共刺激分子の発現を促進したり、抗炎症性サイトカインを増加させたり、制御性T細胞および骨髄由来免疫抑制細胞を増やしたりするのである(Fig. 1)。敗血症によって免疫抑制が起こらないようにする予防策と、免疫抑制が起こってしまった場合の治療法の開発が最優先の研究課題である。

Saidらは先頃、慢性的なウイルス感染や遷延する敗血症に代表される持続的炎症に伴う免疫能低下の分子的機序の解明につながる新しい知見を示した。この研究では、HIVウイルス感染者において認められるプログラム細胞死1 (programmed death 1; PD-1)という名で知られる単球/マクロファージタンパクの作用が明らかにされた。PD-1は免疫エフェクター細胞上に発現する共刺激分子で、negative pathwayに関与する。HIV感染慢性期に、同じ性質を持つリガンドであるPD-L1(これもエフェクター細胞上に発現する)とともにup-regulationを受ける。Saidらは、HIV慢性感染による炎症があると、腸上皮を細菌性メディエイタが通過し、toll様受容体がこれを認識することを明らかにした。腸を通じて入り込んだこのような細菌産生物質による自然免疫の持続的活性化は、様々な免疫細胞上のPD-1およびPD-L1の発現においてup-regulation作用を及ぼす。

教訓 敗血症の病原体は、免疫エフェクター細胞がアポトーシスにより減少するように仕向けたり、MHCクラスⅡ分子の発現を抑制したり、T細胞のnegative pathwayに関わる共刺激分子の発現を促進したり、抗炎症性サイトカインを増加させたり、制御性T細胞および骨髄由来免疫抑制細胞を増やしたりして、宿主の防御能をいろいろな角度から攻撃します。
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