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麻酔文献レビュー2010年6月② [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review:Perioperative Medicine

Anesthesiology 2010年6月号より

Chlorhexidine–Alcohol versus Povidone–Iodine for Surgical-Site Antisepsis

N Engl J Med.2010 Jan 7;362(1):18-26.

米国では毎年2700万件の手術が実施され、そのうち30万~50万人の患者に手術部位感染が発生する。起因菌として最も多いのは皮膚常在菌であるため、術後感染を防ぐには術前の皮膚消毒を正しく行うことが肝要である。

本研究は大規模前向き無作為化比較対照試験で、その目的は、術前の皮膚消毒にクロルヘキシジンアルコールを用いる方がポビドンヨードを用いるよりも感染予防効果が高いかどうかを検証することである。全対象患者に対し、術前に抗菌薬が予防的に全身投与された。

6ヶ所の病院において、準汚染手術を受ける患者849名を無作為にクロルヘキシジンアルコールによる擦式消毒群またはポビドンヨードによる擦式および塗布消毒群に割り当てた。割り当てられた消毒薬を用いて術前の皮膚消毒が行われた。術後30日以内に発生した手術部位感染の発生率と部位を記録した。ポビドンヨード群に対するクロルヘキシジンアルコール群の手術部位感染相対危険度は0.59であった(95%CI, 0.41-0.85)。

解説
準汚染手術では、クロルヘキシジンアルコールで消毒された患者の方が10%ポビドンヨードで消毒された患者よりも手術部位感染発生率が有意に低かった。クロルヘキシジンアルコールを用いて皮膚消毒を行うと、皮膚および深部手術部位感染は減るが、臓器感染は減らなかった。

Treatment of post-partum haemorrhage with sublingual misoprostol versus oxytocin in women not exposed to oxytocin during labour: a double-blind, randomised, non-inferiority trial

Lancet.2010 Jan 16;375(9710):210-6. Epub 2010 Jan 6.

Treatment of post-partum haemorrhage with sublingual misoprostol versus oxytocin in women receiving prophylactic oxytocin: a double-blind, randomised, non-inferiority trial

Lancet. 2010 Jan 16;375(9710):217-23. Epub 2010 Jan 6.

分娩後出血は世界的に母体合併症および死亡率の主因である。発展途上国においては分娩後出血を原因とする死亡の危険性は先進国の100倍にものぼる。その理由として考えられるのは、分娩後出血の管理に長けた熟練者の数が少ないこと、子宮収縮薬が簡単には手に入らないこと、その他の医療資源が乏しいことなどである。分娩後出血の現時点における標準的治療薬はオキシトシンであるが、医療資源が乏しい環境ではオキシトシンを備蓄したり正しく投与したりするのは困難である。オキシトシンに代わる安価で使用法が簡便な子宮収縮薬として、ミソプロストールがある。

ここに挙げた二編の大規模多施設二重盲検無作為化比較対照試験は、エジプト、トルコおよびベトナムで行われた。分娩中にオキシトシンが投与された患者または投与されなかった患者を対象とし、オキシトシンとミソプロストロールの効果が比較された。分娩後出血の診断に引き続き、オキシトシン40IU静注またはミソプロストロール800mcg舌下投与のいずれかに患者を無作為に割り当てた。主要転帰項目は、割り当て薬投与後20分以内に止血した患者の割合と、割り当て薬投与後の出血量が300mL以上であった患者の割合とした。

解説
分娩後出血は主要な母体死亡原因である。オキシトシンがその治療薬であるが、この薬剤の貯法は冷所保存であり、投与には訓練された人材と静脈路の確保を要する。ミソプロストロールは安価であり、貯法は室温保存で舌下投与が可能である。ここに紹介した二編の研究では、分娩後出血の制御にミソプロストロールが有効であることが示され、分娩第三期中にオキシトシンを予防投与されている症例においても分娩後出血の治療薬としてミソプロストロールがオキシトシンの代替薬になることが明らかにされた。ミソプロストロール舌下投与によって、世界各国における分娩後出血による母体死亡率を低下させることができる可能性がある。

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