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過換気は脳傷害によくない⑧ [critical care]

Hypocapnia and the injured brain: More harm than benefit

Critical Care Medicine 2010年5月号より

脳局所のモニタリング:将来の見込みは?

いかなる脳傷害患者においても、低二酸化炭素症の安全「閾値」なるものは存在しない。さらに、外傷性脳傷害では傷害の程度が部位によって大きく異なるため、脳全体の血流や酸素化を反映する指標は当てにならない。その代わりとなる方法として、局所の酸素化をあらわす指標や、コンパートメント間の圧差を目安に動脈血二酸化炭素分圧を調節しながら中等度の低二酸化炭素症を短時間実施するやり方が考えられる。局所脳組織酸素分圧のモニタリング、ベッドサイドでの画像診断、脳内微小透析法、局所頭蓋内圧モニタリングなどの臨床応用が技術の進歩により可能となれば、転帰の改善につながる可能性がある。本レビューで示した見解は、つまるところ、急性脳傷害症例における低二酸化炭素症の臨床適用の有無は、傷害を受けた脳に対して低二酸化炭素症が有害作用を直接的におよぼす可能性があるかどうかによって決定されるということである。

急性脳傷害に対する低二酸化炭素症の現状における役割

脳ヘルニアが切迫している状況
頭蓋内圧を急激に低下させることを目的とした、短時間の低二酸化炭素症の有効性には、生理学的(かつ経験的)な強力な裏付けがある。低二酸化炭素症は迅速に導入することができ、脳血流量を直ちに低下させる効果があるため、頭蓋内圧を制御する根本的な手段が確立するまでの間においては、有効な方法であると言える。ただしこのことを証明するエビデンスは少ない。

脳神経外科手術中の実施
脳神経外科手術中は、良好な術野の確保や脳容量を急速に縮小するために、低二酸化炭素症が導入される。テント上腫瘍症例を対象とした前向き無作為化クロスオーバ試験では、短時間(20分)の術中過換気によって脳容量が減少し頭蓋内圧が低下することが示されている。ただし、この研究では長期的な作用については触れられていない。

術中に低二酸化炭素症とした場合には可及的速やかにnormocapniaに戻すべきであることを銘記しなければならない。なぜなら、低二酸化炭素症の効果は数時間以内に失われるからである。つまり、あとで頭蓋内圧が上昇したときに低二酸化炭素症を導入し制御できる余地を残すことを意図するという意味である。また同時に、動脈血二酸化炭素分圧の正常化が遅れ反跳性脳鬱血が発生する危険性を回避するという意味もある。

まとめ

脳傷害の管理では、低二酸化炭素症が導入されることが未だに多い。それも長時間実施されることが珍しくない。だが、ヘルニア発生当初の症例を除きどのような病態についても、低二酸化炭素症によって神経学的転帰が改善することを示した知見は皆無である。それどころか、低二酸化炭素症は明らかに脳虚血を惹起または悪化させ、他臓器にも直接的または間接的な傷害を引き起こす。急性脳傷害症例において、治療目的で低二酸化炭素症を導入することを決断する際には、それに先立ち利害得失を慎重に考量することが必須である。偶発的な低二酸化炭素症はいかなる場合にも回避すべきであり、予防的低二酸化炭素血症を実施しても臨床的効果は何ら得られない。低二酸化炭素症の実施は、危機的な頭蓋内圧亢進に対する緊急治療または術中に脳容量を急速に縮小する必要がある場合に限定すべきであり、かつ、根本的な対処法が確立されれば中止しなければならない。このような状況では、できる限り早急にnormocapniaに戻すべきである。頭部外傷に対する予防的過換気の有用性についての前向き試験の必要性が指摘されている。しかし、本レビューに示した数々の知見を踏まえると、頭部外傷に対する予防的過換気は往々にして有害であり、たとえ効能が得られるとしても極めて稀であるという認識が広まっているのが現状であり、現時点では予防的過換気に関する前向き試験の実施を正当化するのは困難であると考えられる。

教訓 低二酸化炭素症の実施は、危機的な頭蓋内圧亢進に対する緊急治療または術中に脳容量を急速に縮小する必要がある場合に限定しなければなりません。また、この場合でも、頭蓋内圧を制御する他の根本的な方法を早急に確立し、できる限り早くnormocapniaに戻す必要があります。
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