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過換気は脳傷害によくない① [critical care]

Hypocapnia and the injured brain: More harm than benefit

Critical Care Medicine 2010年5月号より

従来、脳傷害の急性期管理では、低二酸化炭素症にすることによって頭蓋内圧を低下させることが重視されてきた。頭蓋内圧上昇は一般的には有害で、低二酸化炭素症には害はないと考えられているため、急性脳傷害の患者に対して過換気が広く行われてきた。この理屈を敷衍した結果、過換気にすればするほど脳に良い効果が期待されるという考えが生まれ、急性脳傷害に対し高度の過換気を長時間続ける管理法が提唱された。

本レビューでは、急性脳傷害(外傷性と非外傷性の両者とも)における低二酸化炭素症の適用に関する理論的背景を改めて吟味する。以下の単語を用いてMEDLINEおよびPubMed(1966年~2009年8月1日)を検索した:「過換気」「低二酸化炭素症」「アルカローシス」「二酸化炭素」「脳」「肺」および「心筋」。検索は一語ごとおよび複数の組合せで行った。得られた論文の参考文献も調査した。脳傷害患者管理中の低二酸化炭素症の発生頻度と、低二酸化炭素症による効能と有害作用を評価した。

低二酸化炭素症:定義と程度

動脈血二酸化炭素分圧(Paco2)は、二酸化炭素の産生と排出の差し引きで決定される。体内で産生される二酸化炭素の量が正常以下になることは滅多にないため、低二酸化炭素症は通常は故意または偶発的過換気によって引き起こされる。急性脳傷害症例では、「治療を目的とした」低二酸化炭素症が程度別に分類されている(Table 1)。

急性脳傷害患者を低二酸化炭素症にする理由

Monro-Kellieの法則によれば、頭蓋内の体積は不変なので頭蓋内に含まれる構成要素の総容量は一定である。頭蓋内のいずれかの構成要素が増えれば(例;脳浮腫、血腫、腫瘍など)、その他の構成要素の容量が減って代償される。しかし、構成要素の合計容量が閾値を超えると、頭蓋内圧は急激に上昇する(Fig. 1)。頭蓋内圧亢進(頭蓋内圧>20mmHgが続く状態)は、脳血流減少、直接的な圧迫または脳幹ヘルニアなどを引き起こすため、続発性脳傷害の原因となり得る。

低二酸化炭素症にすると、脳動脈が収縮し脳内血液量(CBV; cerebral blood volume)が減るため、頭蓋内圧が低下する(Fig. 1)。その作用は強力である。外傷性脳傷害患者では、動脈血二酸化炭素分圧(60mmHgから20mmHgの範囲)が1mmHg低下するごとに脳血流量(CBF; cerebral blood flow)は約3%減少する。

臨床で低二酸化炭素症を適用する頻度

成人、小児を問わず急性脳傷害症例では、傷害過程の極早期では頭蓋内圧が亢進していなくても低二酸化炭素症が導入されることが多い。低二酸化炭素症の危険性が認識され、成人対象および小児対象のガイドラインが出回っているにも関わらず、低二酸化炭素症は依然として広く適用されている。成人、小児の各ガイドラインでは、低二酸化炭素症の適応は頭蓋内圧亢進による神経症状の悪化が認められる場合に限定されている。

成人における低二酸化炭素症
欧州に所在する脳傷害患者の治療を行う38ヶ所の施設による共同研究であるBrainITでは、外傷性脳傷害症例のデータベースを構築している。このデータベースを用いNeumannらは人工呼吸症例2269例についての動脈血ガス分析データの解析を行った。予防的過換気の早期導入、つまり、収容後24時間における低二酸化炭素症が54%の症例で導入されていた(Fig. 2)。さらに、頭蓋内圧亢進のない患者の大半が、全人工呼吸期間のうち最長50%にわたり著しい低二酸化炭素症になっていた。動脈血二酸化炭素分圧が30mmHg以下であった患者のうち、脳の酸素化のモニタリングを行われていなかった患者が90%以上を占めた。米国では、米国脳神経外科学会認定専門医の36%が重症外傷性脳傷害患者に対し全例でルーチーンに予防的過換気を行っている。

小児における低二酸化炭素症
小児脳傷害患者の管理では依然として低二酸化炭素症の適用が重視されている。遡及的研究では、小児脳傷害症例のうち52%に低二酸化炭素症が導入されており、2003年に発表された小児頭部外傷ガイドラインで低二酸化炭素症の適応を厳しく限定しているにも関わらず、低二酸化炭素症が多くの症例に導入される状況は変わっていない(Fig. 3)。高度の低二酸化炭素症が導入される頻度が最も高いのは幼児(2歳未満)であり、このような若年者の脳が障害を受けやすく、低二酸化炭素症によって脳室内出血が起こる可能性を考えると、小児症例にも低二酸化炭素症が広く適用される現在の状況は憂慮すべき事態である(Fig. 4)。小児患者では、頭蓋内圧亢進が認められなくても高度の低二酸化炭素症が導入されるのが珍しくはない。これは特に懸念すべきことである。なぜなら、低二酸化炭素症は脳傷害の重症度とは独立して院内死亡率を上昇させるからである(オッズ比2.8; 95%CI, 1.3-5.9)。

脳傷害早期の低二酸化炭素症
脳傷害患者では集中治療部入室前にすでに低二酸化炭素症になっていることがある。ミシガン州の救急医のうちおよそ50%が、重症外傷性脳傷害症例では全例にルーチーンで予防的過換気を実施すると答えており、そうでなくとも偶発的に過換気になってしまうことが珍しくない。このような状況を反映し、米国都市部のレベル1外傷センターへヘリコプターで搬送される患者の70%が到着時に高度の低二酸化炭素症(呼気終末二酸化炭素分圧30mmHg未満)に陥っていることが明らかになっている。Warnerらによるさらに新しい報告では、レベル1外傷センターへの搬送途中で気管挿管が行われた外傷性脳傷害患者のうち、到着時に動脈血二酸化炭素分圧が30mmHg未満であったのは16%、30~35mmHgであったのは30%を占めていたということである。このような病院到着前からの低二酸化炭素症の実施は、外傷性脳傷害の転帰を明らかに悪化させる。

教訓 小児の脳傷害では、低二酸化炭素症は脳傷害の重症度とは独立して院内死亡率を上昇させます(オッズ比2.8)。病院到着前から低二酸化炭素症にすると、外傷性脳傷害の転帰が悪化します。
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