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無症状の左室機能低下がある患者の術後転帰~方法 [anesthesiology]

Prognostic Implications of Asymptomatic Left Ventricular Dysfunction in Patients Undergoing Vascular Surgery

Anesthesiology 2010年6月号より

方法

対象

下肢動脈、頸動脈または腹部大動脈に対する予定血管手術(開腹手術、血管内手術のいずれをも含む)を受ける患者1005名を連続的に登録した。対象患者の詳細は先行論文に発表済みである。本研究はロッテルダム(オランダ)に所在するエラスムス医療センターで2002年から2008年にかけて行われた前向きコホート研究である。

基準時点における患者背景

術前に各患者の詳細な病歴を聴取した。心疾患の既往を評価するにあたり、狭心症、冠動脈再開通術または心筋梗塞の既往がある場合を虚血性心疾患ありとした。臨床データとして収集した他の項目は、年齢、性別、血圧、心拍数、脳血管疾患(虚血性または出血性脳血管障害の既往)、腎機能障害(血清クレアチニン>2mg/dL)、糖尿病(空腹時血糖値126mg/dL以上または糖尿病に対する薬物療法の実施)、高血圧(非糖尿病患者では140/90mmHg以上、糖尿病患者では130/80mmHg以上、または降圧薬内服)、高コレステロール血症(LDL 135mg/dL以上または高脂血症治療薬内服)、COPD(GOLD分類に従う)および喫煙の有無である。さらに、β遮断薬、スタチン、アスピリン、経口抗凝固薬、ACEI、ARB、利尿薬および亜硝酸薬の内服状況についても記録した。

心エコー検査

対象症例全例で、ポータブル心エコー装置であるAcuson Cypress Ultrasound System(シーメンス)による経胸壁心エコー検査を術前に行った。3V2Cトランスデューサ(3.0/3.5/2.5/2.0MHz)を使用した。患者を左側臥位とし、安静時における傍胸骨長軸像・短軸像および心尖部二腔像・四腔像を観察する標準的な方法で心エコー検査を行った。Biplane Simpson法によって左室収縮終期および拡張終期容量を測定し、左室区出率を算出した。実施者間の測定値のばらつき、一人の実施者における測定値のばらつきはそれぞれ9-12%、6%であった。心尖部四腔像を用い、収縮期および拡張期肺静脈血流波形、E波減速時間およびE/A比を測定した。心エコーデータは研究目的のみに用い、患者管理の参考にはしなかった。

左室機能低下の定義

拡張障害の有無を問わず、左室駆出率が50%未満である場合を左室収縮障害と定義した。E/A比が0.8未満(弛緩障害)または2を超える(拘束型拡張障害)場合を左室拡張障害とした。E/A比が0.8から2の範囲である患者では、肺静脈血流の異常(S/D<1)の有無によって左室拡張能が正常か低下しているかを判断した。心房細動のある患者では、E波減速時間が220msecを超える(弛緩障害)かまたは140msec未満(拘束型拡張障害)の場合を左室拡張障害とした。左室駆出率が50%以上で、左室拡張障害を呈する場合を、無症状孤発性拡張障害と定義した。心不全症状(息切れ、倦怠感、運動耐容能低下、水分貯留の徴候)を伴う左室機能障害がある場合を、有症状心不全と定義した。心エコー検査に熟達した2名が、得られた超音波画像をオフラインで評価した。判断が一致しない場合は、この2名とは別の1名が評価に加わり、多数決で最終判断を決した。

転帰

全症例で術前、術後第1、3、7日および退院前の各時点において心エコー検査とトロポニンTの測定を行った。転帰項目は、30日後心血管系有害事象(心筋虚血、心筋梗塞および心血管系要因による死亡)および心血管系要因による長期死亡率とした。トロポニンTが術前は正常で術後に上昇(>0.03ng/mL)した場合を心筋虚血と定義した。心電図変化(新規のST-T変化と異常Q波)がありトロポニンT値が上昇している場合を心筋梗塞と定義した。トロポニンT値は、全血迅速検査によって測定した(TropT version 2; ロシュ・ダイアグノスティックス)。術前にトロポニンTの上昇が見られた患者は、本研究の対象から除外した。手術30日後に追跡調査のため患者を受診させることにした。来院しなかった患者については、紹介元の医師に情報提供を求めた。手術30日後に、エラスムス医療センターに継続入院または再入院している場合は、エラスムス医療センターのカルテを用いて追跡調査を行った。

長期死亡は、市役所の住民登録を利用して評価した。死因は死亡届または医療記録から特定した。死因は心血管系要因とそれ以外に分類した。主たる死因または副次的死因が心血管系疾患である場合を、心血管系要因による死亡と定義した。具体的には、心筋梗塞、重篤な不整脈(緊急治療を要する調律異常が続く)、鬱血性心不全、脳血管障害および手術に起因する出血性合併症(による術後死亡)が心血管系要因による死亡に分類された。予期せぬ突然死は心血管系要因による死亡とした。本論文著者のうち2名が死因を特定した。2名の判断が一致しない場合は、別の1名が加わり多数決で最終判断を決した。追跡調査から脱落した症例は皆無であった。

教訓 血管手術(openまたはEVARなどのEVS)を受ける患者1005名を対象に、ルーチーンで術前に心エコーを行い、無症状の左室収縮または拡張障害がある患者を拾い上げ、術後転帰との関係を調べました。
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