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集中治療文献レビュー2010年5月② [critical care]

Anesthesia Literature Review  Critical Care Medicine

Anesthesiology 2010年5月号より

Antiplatelet drugs and outcome in mixed admissions to an intensive care unit

Crit Care Med.2010 Jan;38(1):32-7.

循環血液中の血小板が活性化すると、微小血管内で血小板が凝集し、血小板数が減少する。重症患者の主な死因である敗血症ではこのような現象が発生することが珍しくない。抗血小板薬を重症患者に投与すると、炎症反応の修飾による効果が得られる可能性がある。しかし、抗血小板薬を用いれば出血の危険性が増すため、危険性と有効性を厳密に比較考量する必要がある。

本研究は、入院後24時間以内にICUに入室した症例615例を連続的に収集し分析した遡及的コホート研究である。およそ25%の患者に抗血小板薬(アセチルサリチル酸またはクロピドグレル)が投与されていた。

大半の症例が救急部(52%)または内科もしくは外科病棟(19%)からICUへ入室した症例であった。約60%の患者がICU入室時または入室中に活動性の出血を呈した。抗血小板薬を処方されていなかった患者と比べ抗血小板薬内服中の患者の方が高齢で、入室時のAPACHEⅡスコアが高かった。

全体としては、抗血小板薬処方の有無によるICU入室期間、感染・敗血症発生率および人工呼吸実施率の有意差は認められなかった。回帰分析を行いAPACHEⅡスコアおよび年齢の差を調整し分析したところ、普段から抗血小板薬を処方されている患者の方が死亡率が有意に低いことが分かった。この効果は外科系患者で特に顕著に認められた。

解説
重症患者における抗血小板療法の取り扱いは複雑な問題をはらんでいる。臓器不全のある患者では、出血の危険性と血栓症発生の危険性を慎重に評価しなければならないからである。本研究のデータから、重症患者の一部では抗血小板薬によって死亡率が低下することがはじめて明らかになった。おそらく、抗血小板薬を投与すると、微小血管の血栓および臓器不全を防ぐ効果が発揮されるからであろう。今後、前向き比較対照試験でこの知見が確認されれば、ICU患者の日常臨床に大きな影響を及ぼすであろう。

Association of Telemedicine for Remote Monitoring of Intensive Care Patients With Mortality, Complications, and Length of Stay

JAMA. 2009;302(24):2671-2678.

ICUに集中治療医が常駐していると、合併症発生率および死亡率が低下する。しかし、集中治療医の常駐が、いつでもどこでも可能なわけではない。したがって、遠隔医療の技術を利用し、離れた場所から集中治療医が複数のICUを同時に監視するやり方を採用する施設が増えている。しかし、この技術の導入には多額の費用を要する上、有効性を検証したデータはほとんど存在しない。

この観測研究は、米国の大規模医療保険団体の一つに所属する5か所の病院のICU 6施設で行われた。本研究では、遠隔ICU導入前のICU患者2034名と遠隔ICU導入後のICU患者2108名を比較し、遠隔ICUの有効性を評価した。遠隔ICU導入後の患者のうち655名(31.1%)に関しては、治療に関わるすべての決定権が各施設の担当医に付与されていた。残りの遠隔ICU患者については、危機的状況が発生した場合のみ各施設の担当医が主体的に関与することが許可されていた。

遠隔ICU導入前と遠隔ICU導入後の院内死亡率はそれぞれ12.0%、9.9%であった。ICU死亡率はそれぞれ9.2%、7.8%であった。重症度による調整を行ったところ、院内死亡率(RR 0.85)およびICU死亡率(RR 0.88)のいずれについても遠隔ICU導入前後の有意な変化は認められなかった。遠隔ICUを導入すると、重症度が高い患者の生存率は上昇するが、重症度がそれほど高くない患者では、生存率の改善が得られないかまたは転帰が悪化するという結果が得られた。両群ともICU在室期間は同等であった。

解説
集中治療領域では、遠隔医療が医療の質の向上や医療費の削減につながるかどうかは、はっきりしていない。ICU患者の遠隔監視を行っても、全体としては死亡率の低下やICU在室期間の短縮といった効果は得られないことが明らかになった。しかし、遠隔ICUが従来のICUと異なり転帰を改善するかどうかを評価する際には、ICU患者を均質な集団としては扱えないという点が大きな問題となる。

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