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集中治療文献レビュー2010年5月① [critical care]

Anesthesia Literature Review  Critical Care Medicine

Anesthesiology 2010年5月号より

Early exercise in critically ill patients enhances short-term functional recovery

Crit Care Med. 2009 Sep;37(9):2499-505.

人工呼吸を4~7日実施した症例のうち25-33%に、臨床的な筋力低下が認められるとされている。その結果、ICU在室期間が延長したり、退室1年後に至っても身体機能あるいはQOLが低下した状態が続いたりすることが懸念される。最近の知見では、重症患者でも早期から運動療法が可能であることが示唆されていると。だが、鎮静中のICU患者における運動療法の有効性を検証した文献は僅少である。

運動療法を毎日実施すると、身体機能やQOL低下といった悪影響を予防または緩和する効果を得られるかどうか、また安全性に問題はないかということを検証するため無作為化比較対照試験を行った。循環動態および呼吸状態が運動療法の実施(ICU入室後5日目から実施)が可能な程度に良好で、ICU在室期間が7日以上におよぶと予測される重症患者90名が対象となった。対象患者全員に対し、呼吸理学療法と上肢および下肢の他動運動または自動運動による運動療法を毎日実施した。以上に加え、治療群に割り当てられた患者はベッドサイドで自動的または他動的自転車漕ぎを一日20分間行った。

患者の大半(79%)は、外科系ICU入室患者であった。その主な内訳は、心臓手術後(39%)、移植手術後(25%)、および胸部手術後(16%)であった。対象患者の80%に対し、PSVが行われていた。自転車漕ぎ実施回数の中央値は7回で、自転車漕ぎ実施頻度の中央値は4回/週であった。運動療法中および直後に重篤な有害事象が発生した症例は皆無であった。

退院時におけるいずれの転帰(6分間歩行距離、等尺性大腿四頭筋筋力、身体機能の程度に関する主観的感覚など)も、治療群(自転車漕ぎ実施群)の方が有意に良好であった(P<0.05)。

解説
術後患者であっても、運動療法が禁忌でないことが確認され、実施中には監視を怠らないという条件が満たされれば、運動療法を行うことを考慮すべきであることが本研究で明らかにされた。治療群では、自転車漕ぎによって鍛えられる筋肉が関与する身体機能および筋力の改善が認められた。何本もドレーンが留置され、まだ創部も治癒しきっていない術後患者において、早期離床および作業療法が可能、安全そして有効であるかどうかは不明である。しかしながら、本研究で行われた自転車漕ぎによる運動療法は、人工呼吸患者の筋力低下を防ぐ方法を確立する上での最初の一歩と言える。

Plasma tryptophan and tyrosine levels are independent risk factors for delirium in critically ill patients

ICU入室患者における譫妄発生率は、少ない報告では20%、多いと80%にものぼる。譫妄は予防可能であるが、発生してしまえば、入院期間の延長、医療費増大および死亡率上昇といった事態を招き、長期にわたる禍根を残す可能性もある。譫妄の病態生理はまだよく分かっていないが、セロトニン、ドパミン、アセチルコリンおよびノルエピネフリンの関与する神経伝達に生ずる変化が原因の一つであると考えられている。この予備研究では、神経伝達物質の前駆物質であるトリプトファン、フェニルアラニンおよびチロシンといった大型中性アミノ酸が重症患者における譫妄発生リスクに及ぼす影響が検討された。

大型中性アミノ酸の血漿中濃度を人工呼吸開始後第1日および第3日に測定した。デクスメデトミジンまたはロラゼパムによる鎮静の比較を目的として行われたMaximizing Efficacy of Targeted Sedation and Reducing Neurological Dysfunction (MENDS) trialの登録患者を本研究の対象患者とした。ICU譫妄評価法(CAM-ICU)を用いて譫妄の発生状況を毎日判定した。

評価対象となった患者全員(97名)が、基準時点において高い重症度を呈していた(APACHEⅡスコア中央値28点)。多くの症例(42%)が、敗血症またはARDSによるICU入室例であった。交絡因子調整後の譫妄発生リスクが高いのは、トリプトファン/大型中性アミノ酸比が高いまたは低い(P=0.0003)、チロシン/大型中性アミノ酸比が高いまたは低い(P=0.02)場合であることが明らかになった。その他の予測因子は、高齢、APACHEⅡスコア高得点およびフェンタニル使用量増大であった。

解説
トリプトファン(セロトニンの前駆物質)およびチロシン(ドパミンとノルエピネフリンの前駆物質)をはじめとするアミノ酸の代謝の変化が、ICU患者の譫妄の病態生理と関わっているという説が、本研究で裏付けられた。この結果は厳密な方法による前向き試験によって今後検証される必要があるが、ICU患者における譫妄の予防および対処法の確立に資する病態生理および治療に関する新たな知見を本研究が示したと言えよう。

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