SSブログ

麻酔文献レビュー2010年5月② [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review Perioperative Medicine

Anesthesiology 2010年5月号より

Impact of Advancing Age on Abdominal Surgical Outcomes.

Arch Surg. 2009;144(12):1108-1114.

米国では年間約200万人の高齢者が腹部手術を受けている。高齢者では術後の回復が遅れる可能性があるが、転帰についての臨床データは一貫した傾向を示しているわけではない。この遡及的研究は、ありふれた腹部手術(胆嚢摘除術、大腸摘出術、子宮全摘など)を受けた高齢患者における有害転帰発生リスクを評価する目的で行われた。

ワシントン州退院症例データベースが利用された。65歳以上の患者計101,318名が腹部手術を受けた。術後90日までの合併症発生率および死亡率を評価した。対象患者の平均年齢は74.4歳で、術式として多かったのは大腸切除術(31.2%)および胆嚢摘除術(30.4%)であった。大半(75.4%)が日帰り手術であった。主な基礎疾患は、COPD(12.2%)、糖尿病(8.9%)そして鬱血性心不全(6.5%)であった。

合併症の90日間累積発生頻度は17.3%であり、90日死亡率は5.4%であった。人口統計学的特性、患者背景、術式、癌の有無および入院理由(予定か緊急か)などに関わらず、同等の結果が認められた。

解説
腹部手術を受けた65歳以上の高齢患者では、65歳未満の患者と比べ、術後90日までの死亡を含む術後合併症の発生リスクが高い。対象患者(65歳から90歳超まで)の年齢区分ごとの分析では、年齢が進むほど合併症発生率および死亡率が上昇する傾向があることが分かった。腹部手術が考慮される高齢患者に手術リスクを説明する際に有用なデータが、この研究で明らかになった。

Nutritional risk is a clinical predictor of postoperative mortality and morbidity in surgery for colorectal cancer.

Br J Surg. 2010 Jan;97(1):92-7.

消化管手術後の入院患者のうち50%までが低栄養状態に陥ると言われている。低栄養は、術後合併症発生の危険性増大、入院期間の延長、医療費高騰および死亡率上昇を招く。

スイスの研究グループが行ったこの前向き研究では、入院時に栄養状態を判定することによって、結腸直腸予定手術後の死亡もしくは合併症の発生を予測できるか否かの検討が行われた。平均年齢65歳の186名について、臨床因子、Reillyの栄養危険度判定スコア、栄養危険度スクリーニングスコア(2002)、腫瘍の大きさおよび術式が記録された。

基礎疾患として多かったのは、心血管系疾患、代謝性疾患および呼吸器疾患であった。全体の入院期間中央値は20.2日、平均体重減少量は2.97kgであった。栄養危険度は術後合併症の独立した予測因子であることが明らかになった。

解説
術前の低栄養は、結腸直腸手術後の転帰を予測する因子である。しかし、栄養危険度を判定する方式によって予測精度は異なる。栄養不良が特定の合併症(例;創感染または創離解)の発生原因であるのかどうかを明らかにするには、さらに研究を行う必要がある。補充療法を行って栄養状態を改善することによって、合併症が減るか否かは不明である。

A Sensitive Cardiac Troponin T Assay in Stable Coronary Artery Disease

N Engl J Med. 2009 Dec 24;361(26):2538-47.

急性冠症候群が疑われる患者では、トロポニン値が高いと冠動脈虚血イベントを繰り返す可能性が高い。トロポニン値の上昇がわずかであっても、有害転帰の危険性は増大する。安定した冠動脈疾患のある患者の大半における血漿中心筋トロポニンT濃度は、一般に普及している検査法では検出可能レベル以下であるため、リスク分類に使用するには支障がある。

新しく開発された高感度分析法では、従来法における検出可能濃度の1/10の血漿中トロポニンT濃度でも測定することができる。表記の研究は、安定した冠動脈疾患があり左室機能が良好な患者3679名を対象に行われた大規模無作為化比較対照試験(Prevention of Events with Angiotensin Converting Enzyme Inhibition trial)のサブグループ解析にあたる。この大規模試験では、新しい高感度分析法によって心筋トロポニンT濃度の測定が行われた。追跡期間中央値5.2年における心血管系事故の発生頻度別に結果を解析した。

心筋トロポニンT濃度が検出限界(0.001mcg/L)以上であったのは3593名(97.7%)であり、健常者における測定値の99パーセンタイル値(0.0133mcg/L)以上であったのは407名(11.1%)であった。トロポニンT以外の独立予測因子について調整したところ、心筋トロポニンTが上昇している患者群では心血管系の原因による死亡および心不全の累積発生頻度が高いことが明らかになった。トロポニンT濃度と心筋梗塞発生頻度とのあいだには相関は認められなかった。

解説
安定した冠動脈疾患の患者における心筋トロポニンT濃度は、通常は検出限界以下である。高感度分析法によって測定した心筋トロポニンT濃度が(正常対照群と比べて)高い患者では、心血管系の原因による死亡や心不全に至ることが多い。トロポニンTのこのようなわずかな上昇が、周術期の心血管系合併症および死亡リスクの上昇と結びつくのか否かを明らかにするには、さらに研究を重ねて検証する必要がある。

コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。