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麻酔文献レビュー2010年5月① [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review Perioperative Medicine

Anesthesiology 2010年5月号より

Can Aviation-Based Team Training Elicit Sustainable Behavioral Change?

Arch Surg. 2009;144(12):1133-1137.

人々が気持ちよく協同して働き過誤を減らすにはどうすればよいのか、という課題に対する航空業界の取り組みの一環に、人的資源管理(Crew Resource Management; ユナイテッド航空がNASAの協力を得て開発した危機管理法)がある。1977年に起こったジェット機二機の衝突事故という大惨事が契機となり、同様の事態が二度と発生しないようにこのような防止策が開発された。医療関連事業体の多くは、周術期の人的過誤を減らすためこの人的資源管理手法を採用している。本論文では、高次機能病院と医学部関連地域病院の二施設で多職種周術期プログラムを導入した成果が述べられている。このプログラムでは、チーム構築演習(チーム意識の涵養)、公開討論会およびビデオなどの方法で指導が行われた。

プログラムの一環として、術前チェックリストが導入された。このチェックリストに搭載されているのは確認を怠ると致命的となりうる項目(”killer item”)である。つまり、過誤を防止し、合併症を抑止するのに必要な項目ということである。このリストには、手術部位および術式、抗菌薬の投与が済んでいるか、深部静脈血栓症予防策としてどのような対策が講じられているか、などのチェック項目が含まれている。チェックリスト使用状況および受け入れ状況の調査が行われた。当初、外科医は抵抗を示したが、チェックリストの項目がすべて満たされないのに手術を行おうとする外科医に看護師は荷担しなくてよいとの通達が下された。遵守度と認容度は次第に上昇した。特に、抗菌薬の投与忘れや、重要な手術器具がない、といった過誤発生例が明るみに出るにつれ受け入れが進んだ。

人的資源管理プログラムを受講するうちに、関係者は過誤の報告を進んで発表するようになり、自分に足りないところを自覚するに至った。このようなプログラムを導入すれば、人々の行動を変えることは可能である。しかし、過誤を防ぎ合併症を減らすことができるという成果を示すには長い月日が必要であろう。

解説
手術室は航空機のコックピットと多くの点で似ている。チェックリストを活用することによって人的過誤が減る可能性がある点も共通している。各施設において、このようなチェックリストの利用を考慮し、医師以外の職種にもチェックリストの確認に参加するよう呼びかけるべきである。医師以外の職種も、周術期医療を担うチームの重要な一員であり、過誤を発見したり予防したりするのに必要な人材である。

Duration and magnitude of the postoperative risk of venous thromboembolism in middle aged women: prospective cohort study

BMJ 2009;339:b4583

術後数週間は静脈血栓塞栓症の危険性が高い。術式によって危険性の度合いは異なり、最も高いのは整形外科大手術および癌手術後である。静脈血栓塞栓症の発生リスクが高い状態が続く期間およびリスク増大の度合いを知るため、英国女性130万人を対象とした前向きコホート研究を行いデータを収集した(“Million Women Study”)。

静脈血栓塞栓症の既往があるか、または手術が複数回にわたり行われた症例は除外した。肺塞栓または深部静脈血栓症の主要診断、肺塞栓または深部静脈血栓症による入院および死亡のそれぞれについて調整後相対危険度および標準化罹患率を求めた。

対象患者(n=947,454)の平均年齢は56歳であり、大半(85%)が閉経後であった。追跡調査の平均期間は6.2年であった。肺塞栓で入院した患者は2487名で、1%未満であった(0.6%)。深部静脈血栓症と診断された患者は3529名で、やはり全体の1%未満であった。死亡時にはじめて深部静脈血栓症と診断されたのは270名であった。手術を受けていない患者と比較し、手術後6週間の期間に静脈血栓塞栓症で入院する患者の割合は、入院手術では70倍、日帰り手術では10倍にのぼった。術後7~12週間経過すると、それまでよりは静脈血栓塞栓症の危険性は低下するものの、依然として高止まりしていた。入院手術症例のうち相対危険度が最も高かったのは、THR/TKRおよび癌に対する手術であった(術後1-6週間の相対危険度はそれぞれ、220.6および91.6)

解説
この研究では100万名を超える患者を対象として術後静脈血栓塞栓症のリスクが検討された。その結果、英国の中年女性が入院手術を受けると、140名中1名が手術12週間後までに静脈血栓塞栓症を発症することが明らかになった。手術を受けてない同年代女性では、6200名中1名が静脈血栓塞栓症により入院するに過ぎない。術後静脈血栓塞栓症の予防策が充実してきているにも関わらず、中年女性では依然として術後静脈血栓塞栓症の発症リスクが高いことが分かった。

Erythropoiesis stimulating agent administration improves survival after severe traumatic brain injury: a matched case control study.

Ann Surg. 2010 Jan;251(1):1-4.

非外傷性頭蓋内出血、統合失調症および進行型多発性硬化症の患者を対象とした臨床研究で、赤血球造血刺激因子製剤(エリスロポエチン製剤、ESA;Erythropoiesis stimulating agent)に神経保護作用があることが明らかにされている。しかし、重症外傷性脳損傷症例におけるエリスロポエチン製剤の有効性については、in vitroの前臨床試験データを根拠に期待されているに過ぎない。この遡及的対症例対照研究は、エリスロポエチン製剤が持つ臨床的有効性の可能性を詳らかにする目的で行われた。

外科系ICUに収容された重症外傷性脳損傷患者(AISスコア3点以上)89名に対し、エリスロポエチン製剤が投与された。一例に対し、過去12年間に発生したエリスロポエチン製剤非投与重症外傷性脳損傷対照症例一または二例(全体で178症例)を設定した。

外科系ICUに入室した1651例のうち89名にエリスロポエチン製剤が投与された。基準時点における背景因子や合併症に関してはエリスロポエチン製剤使用群と非使用群のあいだに差はなかった。全入院期間およびICU入室期間はエリスロポエチン製剤使用群の方が有意に長かったが、死亡率はエリスロポエチン製剤の方が有意に低かった(7.9% vs 24.2%, p=0.001)。

解説
外傷性脳損傷動物モデルを用いた実験で、エリスロポエチン製剤を投与すると神経学的転帰が改善することが示されている。ここに示した遡及的症例対照研究では、エリスロポエチン製剤を投与すると重症外傷性脳損傷患者の生存率が上昇することが明らかになった。以上から、この結果を検証する無作為化比較対照試験が行われることが望まれる。
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