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グラム陰性菌による院内感染~治療③ [critical care]

Hospital-Acquired Infections Due to Gram-Negative Bacteria

NEJM 2010年5月13日号より

多剤耐性グラム陰性菌感染症に対して現在行われている他の治療法には、βラクタム薬の長時間(3~4時間)投与もしくは持続投与とVAPに対する抗菌薬エアロゾル療法がある。多剤耐性菌によって引き起こされる感染にはこうした治療法が特に有効である(Table 5)。例えば、入院患者における薬力学および薬物動態データによれば、セフェピム、ピペラシリン/タゾバクタムおよびカルバペネム系薬といったβラクタム薬の投与時間を長くすると、殺菌作用が有意に増強する(セフェピムおよびピペラシリン/タゾバクタムの%T>MICは少なくとも50%、カルバペネム系薬の%T>MICは40%になる)。MICの高い(8~16mcg/mL)細菌では持続投与によって特に殺菌能が強化される。さらに、in vitro実験では持続投与を行うと耐性菌の出現が抑制されることが示されている。βラクタム薬長時間投与の臨床データはまだ少ない。いくつかの遡及的研究では転帰が改善されることが示されているが、前向き試験では一貫した結果は得られていない。トブラマイシン、アミカシンおよびコリスチンメタンスルホン酸ナトリウムの吸入薬は、全身毒性を減らし感染部位へ効率的に薬物が到達するようにする目的で使用されている。重症もしくは難治性肺炎や多剤耐性菌による肺炎に対しては、抗菌薬を全身投与するだけでなく、吸入も併用する治療法が一つの選択肢として考えられる(Table 5)。抗菌薬の吸入療法では気管支攣縮のような呼吸器系合併症の報告がある。投与前に気管支拡張薬を投与すれば気管支攣縮を防ぐことができるかもしれない。FDAは、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウムの吸入薬を投与する際は、薬剤の準備ができ次第すぐに使用し、活性型コリスチンによる肺毒性発現の予防に努めるように、との注意を喚起している。抗菌薬吸入療法およびβラクタム薬の長時間投与については、臨床的有効性および安全性を明らかにするには、前向き試験の実施が必要である。特に、ブドウ糖非発酵グラム陰性菌に対するこれらの治療法の効果についての研究結果が待たれる。

Table 5 耐性グラム陰性菌による重症感染症(VAPおよび血流感染を含む)に対する推奨治療法

ESBL産生腸内細菌科細菌
メロペネム1-2gを8時間ごとに静脈内投与;イミペネム500mgを6時間ごとに静脈内投与;ドリペネム500mgを8時間ごとに静脈内投与または1時間もしくは4時間かけて投与

カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌
コリスチン2.5~5.0mg/kg/dayを2~4分割して投与(コリスチンメタンスルホン酸ナトリウムであれば6.67~13.3mg/kg/dayに相当);チゲサイクリン初回は100mgを静脈内投与、以降は50mgを12時間おきに静脈内投与

カルバペネム耐性緑膿菌およびAcinetobacter baumannii

カルバペネム耐性緑膿菌
コリスチン(使用法はカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌と同じ)

カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii
コリスチン(カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌に対する使用法と同じ);アンピシリン/スルバクタム 1日あたり~6gのスルバクタム投与量になるように静脈内投与;チゲサイクリン(カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌に対する使用法と同じ。ただしこの投与量は血流感染の場合は当てはまらない。)

カルバペネム耐性菌に有効である可能性のある治療法

長時間投与 
メロペネム3時間かけて1~2g静脈内投与8時間ごと;ドリペネム4時間かけて500mg~1g静脈内投与8時間ごと;イミペネム3時間かけて1g静脈内投与8時間ごと

併用療法
上記薬剤に加え、リファンピシン、ミノサイクリン、ドキシサイクリンまたはアジスロマイシンを併用

カルバペネム耐性菌による肺炎
コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム吸入薬100万~300万 IU/dayを分割投与(滅菌生食で希釈する)。通常のネブライザーを使用する。;アミノグリコシド系薬吸入

教訓 多剤耐性グラム陰性菌感染症に対して現在行われている代替治療法には、βラクタム薬の長時間(3~4時間)投与もしくは持続投与とVAPに対する抗菌薬エアロゾル療法があります。
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