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小児肺疾患最前線2009② [critical care]

Update in Pediatric Lung Disease 2009

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年4月1日号より

BPDのエフェクターと肺の発生

肺傷害は、肺の発生を妨げ、早期産児にBPDを発症させしめる。この場合、肺傷害の主要因は酸素投与と機械的人工呼吸である。臨床上はこれら2つの要因による肺傷害を区別することは不可能に近い。ヒヒの早期産仔を100%酸素に曝露すると、肺胞形成が十分に行われなくなる。マウスやラットの新生仔でも同様である。このような肺胞形成の障害には幾多の炎症性メディエータが関与していることがすでに分かっているが、高酸素症によるミトコンドリア機能障害というメカニズムも関わっていることが新たに認識されはじめている。ヒヒやヒツジの早期産仔では、吸入気酸素濃度を低くし軽い振動換気や低いCPAPで換気した場合は、通常の換気を行う場合に比べ、肺胞発生の停滞の度合いが軽度に止まる。さらにやさしい換気方法を実施したところ、正常な発生様式で見られるのと同じような細胞増殖とアポトーシスが起こるとともに、肺胞隔壁も正常に形成されることが明らかにされた。しかし、マウス新生仔に機械的人工呼吸を行うと、隔壁形成部位の局所エラスチン量が急激に失われ、人工呼吸開始から1日以内に総エラスチン量が肺胞壁全体で瀰漫性に増加する。この際、炎症所見は認められない。肺胞形成調節不全のもう一つの例は、酸素に曝露されたマウスやBPDで死亡した乳児の肺組織における、リシルオキシダーゼ(コラーゲンやエラスチンの合成に必要な酵素)の増加である。この現象はおそらく、トランスフォーミング成長因子-βの増加によって引き起こされているものと考えられている。

BPDを発症している乳児の人工呼吸中に一酸化窒素吸入療法(iNO)を行うと、BPDの進行を防ぐことができる可能性が示唆されている。人工呼吸中のヒヒ早期産仔でも、一酸化窒素吸入療法を行うと肺機能が改善し、肺の発達が促進されることが明らかにされている。同様に、ラット新生仔にブレオマイシンを投与すると肺の構造異常と肺高血圧が引き起こされるが、一酸化窒素を吸入させるとこのブレオマイシンによる肺傷害が緩和される。酸素に曝露されると、内因性一酸化窒素が減少する。これがおそらく一酸化窒素吸入療法が肺の発生を促進する理由であろう。しかし、肺の発生の制御および制御妨害のメカニズムは非常に複雑である。たとえば、胎児のエストロゲンおよびプロゲステロン血漿中濃度は子宮内では非常に高く、出生後には急速に低下する。ブタ胎仔では、エストロゲンおよびプロゲステロン血中濃度が低いと肺胞の形成が阻害される。マウスではエストロゲン受容体によって肺胞容積が調節される。McCurninらは、人工呼吸中のヒヒ早期産仔にエストリオールを投与し、正常ヒヒ胎仔と同程度のエストロゲン血中濃度を達成することによって、エストロゲンによる肺胞形成調節に関する仮説を検証した。そして、対照群と比べエストリオール投与群の方が心血管系機能および肺機能が良好であるという結果を得た。エストリオール投与によって、内因性一酸化窒素合成酵素のアップレギュレーションが起こることが分かった。早期産児にエストロゲンとプロゲステロンの補充療法を行った場合に、内分泌系にどのような長期的影響があらわれるのかは不明である。

どの乳児がBPDを発症するのかを予測するのは非常に難しい。そのため、BPDのバイオマーカーに関する研究が盛んに行われている。Ambalavananらは近頃、複数の血中炎症促進性サイトカインがBPD発症予測には適していないことを明らかにした。その理由の一つは、BPDを発症しない早期産児でも、これらの炎症促進性サイトカインやその他の物質の増加が認められるからである。Laughonらは、在胎28週未満で出生した乳児900名を対象とした研究を行い、出生後14日目までの酸素使用状況がBPDの予測因子として妥当であることを明らかにした。2010年中にNHLBI(米国国立心肺血液研究所)の資金提供によって、BPDの発症予測に有用なバイオマーカーを見いだすことを目的とした多施設共同研究が行われる予定である。

胎児/新生児の炎症やBPDにおける主要な炎症性メディエーターの1つはIL-1であろう。絨毛膜羊膜炎ヒツジ胎仔モデルを用いた実験では、リポ多糖(LPS)による全身性炎症および肺の炎症の成立にIL-1が深く関与することが明らかにされている。成長過程のマウスにおいてIL-1が過剰発現すると、肺の炎症や肺胞形成障害が引き起こされる。Lukkarinenらは遺伝子操作モデル(トランスジェニックモデル)を使い、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9;基底膜の破壊や血管新生を誘導する)がIL-1の介する肺傷害の発生を防ぐことを示した。IL-1は急性期反応の早期に肺胞マクロファージや肺胞上皮から放出されるサイトカインであるが、一部はinflammasome(caspase 1、PYCARD、a NALP 、caspase5、caspase11などからなる複合タンパク。IL1β や IL18の成熟を促進し、アポトーシスの誘導にも関わる。)や細胞内小器官中にプロサイトカインとして貯蔵されている。満期出生児でもinflammasomeが介する IL-1の放出により重症全身性炎症反応が起こりうる。この分野における有望な研究テーマは、BPDなどの疾患でinflammasomeが介する傷害が発生している可能性の解明である。

教訓 BPD患児の人工呼吸中にNOを吸わせると、BPDの進行を防ぐことができる可能性があります。早期産児にエストロゲンとプロゲステロンを補充すると、肺胞形成が促進されるかもしれません。


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