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プロバイオティクス投与とVAP発生率~考察② [critical care]

Impact of the administration of probiotics on the incidence of ventilator-associated pneumonia: A meta-analysis of randomized controlled trials

Critical Care Medicine 2010年3月号より

我々がここに示した知見は、プロバイオティクスによるVAP予防というテーマについて行われる今後の研究に役立つ興味深いヒントとなるだろう。人工呼吸患者には、乳酸菌を主体としたプロバイオティクス製剤が有用であると考えられる。だが、乳酸菌以外の菌種、例えば酵母など、を用いたプロバイオティクス製剤の有効性についてのデータは、今のところ我々は持ち合わせていない。さらに、今回のメタ分析におけるサブグループ解析で、シンバイオティクス製剤が肺炎の予防に有効であるという結果が得られたことから、単独菌種のプロバイオティクス製剤を投与するのではなく、プロバイオティクスとプレバイオティクスの併用(つまりシンバイオティクス)の方が好ましい可能性がある。本メタ分析の対象としたRCTsのうち外傷患者のみを対象とした2編ではプロバイオティクスが有望であることを示す結果が得られていることを踏まえると、プロバイオティクスによるVAP予防効果についての研究は外傷患者に絞って行うとよいかもしれない。

今回のメタ分析の対象となったRCTsのうち、プロバイオティクス投与に起因する菌血症についてのデータを示したもの(3編)では、該当する症例の報告はなかった。残念ながらこの3編では、各患者における血液培養施行回数や血液培養が実施された患者の割合が示されていない。プロバイオティクス製剤は薬品ではなくサプリメントとして市販もされているため、医薬品のような厳しい規制の対象ではない。プロバイオティクスによる疾患、つまり乳酸菌によるVAP、菌血症および心内膜炎などの報告および監視は行われていないため、弱っている患者に対するプロバイオティクス投与の安全性が懸念されている。例えばICU患者は弱っている患者の代表例である。ICU患者はたいてい免疫能低下の既往があったり、現に進行中の重篤な免疫能低下を抱えていたりする。しかし、プロバイオティクス擁護派は、移植患者やHIV患者などの極めて脆弱な患者にも乳酸菌製剤は投与されていて重篤な合併症の報告もない、と反駁するであろう。今回のメタ分析の対象となったRCTのうち除外基準を設けていたものでは、奇しくもすべてが免疫抑制患者を対象から除外していた。したがって、今回のメタ分析で得られた知見からは、免疫抑制状態にある患者に対しするプロバイオティクス投与の安全性について見解を述べることはできない。副作用の可能性を理由にプロバイオティクス関連の研究を躊躇すべきではなく、それよりむしろ、プロバイオティクス製剤を用いた研究を実施するのであれば期間中のプロバイオティクスに起因する感染の監視と積極的な調査を行う必要がある、という考えを専門家は共有しているように見受けられる。

本研究を解釈する際は、問題点がある可能性を念頭におくべきである。第一に、プロバイオティクス関連のエビデンスを統合しようとすれば、どんなやり方であっても結局は、研究デザイン、評価対象となる病態および使用するプロバイオティクス製剤にばらつきがあるという制限がつきまとう。例えば、プロバイオティクスが重症患者の転帰に及ぼす影響の評価を目的とした試験はいくつも行われているが、VAP発生率については触れられていないものも多い。今回のメタ分析では、VAPについてはっきりと言及しているRCTのみを対象とした。VAP以外の病態について検討していたり、RCT以外の研究デザインで行われたりした研究は対象としなかったのである。さらに、対象としたRCTのすべてが、乳酸菌を主成分としたプロバイオティクス製剤を用いていた。5編のうち3編では奇遇にも全く同じプロバイオティクス製剤が用いられていた。この3編についてのサブグループ解析を行ったところ、5編すべてを対象とした主解析と同様の結果が得られた(つまり、プロバイオティクスによるVAP予防効果が確認された)。

第二に、データ不足のためプロバイオティクスが人工呼吸器非使用日数に及ぼす影響については検討することができなかった(VAPについてのメタ分析では、発生率とともに人工呼吸器非使用日数が評価されるのが普通である)。第三に、肺炎ではなく実は気管支炎であったのにVAPと診断された症例を除外することはできなかった。第四に、対象となった5編のRCTは、抗菌薬の全身投与に関しての情報が十分には示されていなかった。例えば、抗菌薬全身投与の適応、開始時期、適切な抗菌薬が選択されていたか否か、平均投与期間などである。第五に、プロバイオティクス製剤の投与量、投与期間および投与経路の違いが交絡因子として作用した可能性がある。そのため、プロバイオティクス投与様式に関する情報を慎重に収集し、Table 1にまとめた。さらに、プロバイオティクスを胃管から投与した試験のみを対象としたサブグループ解析を実施し、やはりプロバイオティクス群では対照群よりもVAP発生率が低いという結果を得た。

まとめ

今回の研究では、プロバイオティクス投与によってVAP発生率が低下するという、臨床に有益な知見が明らかになった。臨床試験を一つ行うだけでは、おそらく検出力不足のためこのようなはっきりした結果を得るには至らないと思われる。本研究で得られた知見を踏まえるとこのテーマは有望であり、今後もさらなる研究が重ねられるべきである。プロバイオティクスによるVAP予防効果についてのRCTは、今のところ少なくとも2編が進行中である。今回のメタ分析の結果は、この現在行われているRCTの結果を解釈する際に役立つ新しい視点を示したであろうし、より説得力のある仮説をより質の高いデザインで研究する上でも貢献することであろう。今後行われる同種の研究では、プロバイオティクスの安全性を厳密に評価するため、血液培養をしっかり行うべきである。

教訓 乳酸菌だけを投与するよりも、乳酸菌とプレバイオティクスとの混合投与(=シンバイオティクス)の方が肺炎予防効果が高いようです。
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