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プロバイオティクス投与とVAP発生率~考察① [critical care]

Impact of the administration of probiotics on the incidence of ventilator-associated pneumonia: A meta-analysis of randomized controlled trials

Critical Care Medicine 2010年3月号より

考察

今回のメタ分析では人工呼吸患者総勢289名についてのデータを統合・解析し、プロバイオティクス投与によりVAP発生率が低下するという結果が得られた。様々なサブグループ解析も実施し、いずれにおいても一貫して同様の結果が得られたことから、本メタ分析で得られた主要な知見の確からしさがさらに増したと考えられる。さらに、プロバイオティクスを投与するとICU滞在期間が短縮し、緑膿菌の気道定着が減ることも分かった。しかし、全死因死亡率の低下と人工呼吸期間の短縮は認められなかった。

我々の行ったメタ分析の主要結果は、同じ案件について過去に発表されたレビューの主旨とは相反する。先行レビューでは、重症患者におけるプロバイオティクスの有用性に疑義が呈されている。Watkinsonらが行ったそのメタ分析では、「プレバイオティクス、プロバイオティクスもしくはシンバイオティクスを成人重症患者に投与しても、ICU滞在期間、院内死亡率および院内感染発生率のいずれにも有意な改善は認められない」と述べられている。同じくIsacowらによるプロバイオティクスによる院内感染予防についてのレビューでも、メタ分析は行われていないものの、「現時点では、プロバイオティクス投与によって院内肺炎が減少することを裏付ける臨床エビデンスは存在しない」と結ばれている。しかし、上記二編のいずれの文献も、著者らがはっきり明言している通り、検討対象となるエビデンスが論文作成時には不足していたため決定的な結論を得ているわけではない。さらに、二編ともVAPには的を絞っていない。反対に、我々の行ったメタ分析では新しく発表されたRCTs(つまり前述の二編が上梓された後に世に出たRCTs)も対象とし、プロバイオティクスによるVAP予防効果に限定して解析を行った。

今回のメタ分析で得られた主要な結果(プロバイオティクスにはVAP予防効果があること)と同じ結果が、今のところ梗概だけしか発表されていない二重盲検RCTでも確認されている。この研究を行ったMorrowらは成人人工呼吸患者40名を対象とし、プロバイオティクス製剤(乳酸菌GG株)投与群とプラセボ群を比較した。そして、プロバイオティクス製剤投与群の方が有意ではないもののVAP発生率が低いという結果が得られた(プロバイオティクス製剤vsプラセボ群:19名中5名[26%] vs 21名中10名[45%];p=0.21;カイ2乗検定)。我々の行ったメタ分析に、このMorrowらのRCTを加えて解析を行っても、元々の主要結果(プロバイオティクス投与によってVAPが減少する)と一致した結果が得られたことは、注目すべき点である(患者総数729名;固定効果モデル:OR, 0.59; 95%CI, 0.40-0.86;変量効果モデル:OR, 0.54; 95%CI, 0.33-0.90;対象RCTs 6編)。つまり、プロバイオティクスによってVAP予防効果が得られるという我々の主張が、さらに盤石なものとなったというわけである。

重症患者におけるプロバイオティクスの役割を検討した体系的総説で俎上にあげられたRCTsのうち3編を今回のメタ分析では対象としなかったことに疑問が投げかけられるかもしれない。この3編は、術後患者だけが対象とされている。術後患者は大半がICU滞在期間48時間未満、人工呼吸期間48時間未満であり、この期間内に肺炎が発生したとしてもそれはVAPとは言い難い。この点については、前述の体系的総説でも指摘されている。今回のメタ分析では確実な結果を示したいと思い、厳密な方法を採用した。つまり、人工呼吸管理が行われている患者が対象とされ、VAPについてはっきりと言及されているRCTsのみを対象としたのである。さらに、前述の3編(本研究では対象としなかったが、過去の総説では触れられている論文)を我々のメタ分析に組み入れると、我々の得た結果が覆るどころか、プロバイオティクスにVAP予防効果があることがさらに強調されることになるのである(患者総数859名;固定効果モデル:OR, 0.62; 95%CI, 0.42-0.91;変量効果モデル:OR, 0.61; 95%CI, 0.39-0.95;対象RCTs 6編)(Fig. 4)。

今回のメタ分析で得られたもう一つの興味深い知見は、プロバイオティクス投与群では緑膿菌の気道定着が見られる患者が少なかったことである。これが、プロバイオティクスを投与された患者では、緑膿菌によるVAPの発生率が(統計学的には有意ではなかったが)
低いことにつながってものと考えられる。プロバイオティク群では、緑膿菌によるVAPは少ない傾向が認められたが、腸内細菌や黄色ブドウ球菌によるVAPの減少は確認されなかった。したがって、プロバイオティクス群で緑膿菌の気道定着が少なく、緑膿菌によるVAPも少ないことは、プロバイオティクスが緑膿菌という特定の細菌に特異的に作用することを意味している可能性がある。しかし、抗緑膿菌活性を持つ抗菌薬を投与されていた患者の数が、対照群よりプロバイオティクス群に多かっただけなのではないか、という反論も成り立つかもしれない。我々は、この反論について正確に答えることはできない。なぜなら、VAPの診断が下されるより前の時点における抗緑膿菌抗菌薬の使用状況についてのデータが少ないからである。実際のところ、本メタ分析の対象RCTのなかで1編のみで抗緑膿菌抗菌薬の使用状況に関するデータが示されていたに過ぎない。このRCTでは、「抗緑膿菌抗菌薬使用の既往と緑膿菌感染症の発生のあいだには統計学的に有意な相関は認められない」と報告されている。この問題については、今後の研究に期待したい。

教訓 重症患者におけるプロバイオティクスの有用性を検討した過去のレビューでは否定的な見解が示されていますが、今回のメタ分析ではVAPに的を絞り、新たに発表されたRCTも対象にしたところ、プロバイオティクスにはVAP予防効果がありそうだ、という結果が得られました。
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