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集中治療文献レビュー2010年3月 [critical care]

Anesthesia Literature Review Critical Care Medicine

Anesthesiology 2010年3月号より

Prone Positioning in Patients With Moderate and Severe Acute Respiratory Distress Syndrome : A Randomized Controlled Trial.
JAMA. 2009;302(18):1977-1984.

ARDSは重篤な低酸素血症を呈する死亡率の高い疾患である。高度の低酸素血症が認められる場合に腹臥位にすると、救命的措置としての効果が得られることが示されていることから、ARDS患者では腹臥位が推奨されている。この研究は、前向き多施設無作為化非盲検比較対照試験(the Prone-SpineⅡstudy)である。対象は中等度から重度の低酸素血症を呈し人工呼吸を要するARDS患者342名で、腹臥位によって転帰が改善する可能性についての評価が行われた。対象患者は仰臥位(174名)または腹臥位(20時間/日;168名)に無作為に割り当てられ、人工呼吸管理が行われた。28日後全死因死亡率が記録された。

仰臥位群と腹臥位群の死亡率は同等であった(28日後死亡率:31.0% vs 32.8%; P=0.72、6ヶ月後死亡率:47.0% vs 52.3%; P=0.33)。低酸素血症が中等度の群と重度の群とに分けてみても、仰臥位群と腹臥位群の死亡率は同等であった。さらに、少なくとも一つの合併症(例;鎮静を深くしなければならない、筋弛緩を要する、血行動態が不安定になる、気管チューブの位置異常)が発生した患者の割合は、腹臥位群の方が有意に大きかった。

解説
よく練られた研究である。人工呼吸を要する中等度から高度のARDS患者にルーチーンで腹臥位を行っても、死亡率および合併症発生率の点から、何ら有益性は得られないことが明示された。だからといって、ARDSでICUに入室した患者に例外なく腹臥位を行ってはならないというわけではない。しかし、一時的な酸素化の改善を得るためにICU患者を腹臥位にするという決定を下す際には、利害得失を十分に比較考量すべきである。

Comparison of routine and on-demand prescription of chest radiographs in mechanically ventilated adults: a multicentre, cluster-randomised, two-period crossover study.
Lancet 2009; 374: 1687-93

アメリカ放射線医学会は、ICUで人工呼吸が行われている患者では胸部X線写真を毎日撮影することを推奨している。しかし、胸部写真を毎日撮る必要性の有無については賛否両論があり医師全体の合意は形成されていない。患者の状態をみて必要だと判断されるときにのみ胸部写真を撮影する、必要時撮影法(on-demand strategy)と比べ、ルーチーンで毎日撮影すると患者の被爆も医療費も増加する。

胸部X線写真のルーチーン毎日撮影と必要時撮影(オンデマンド撮影)について、その便益とリスクを比較する目的で、18病院に所属する21か所のICUにおいてクラスター無作為化クロスオーバー研究が行われた。各ICUにおいて連続20名の患者を登録し、ICU退室または人工呼吸開始後第30日のいずれか早い時点まで観測した。主要転帰は平均胸部X線写真撮影回数/患者数・人工呼吸日数とした。

必要時撮影が行われた患者(425名;胸部写真3148回)は、ルーチーン毎日撮影が行われた患者(424名;胸部写真4607回)と比べ撮影回数が32%少なかった(P<0.0001)。何らかの診断手技や治療手技に結びついた胸部写真の枚数については、二群間に有意差は認められなかった。人工呼吸日数、ICU日数および死亡率は両群同等であった。

解説
ICUで人工呼吸管理が行われている患者において、胸部写真は必要時に撮影する方が毎日ルーチーンで撮影する場合と比べ安全で費用対効果も良好であることが明らかにされた。つまり、教科書通りの方法でしっかりと読影するのであれば、胸部写真は必要時に撮影すればよいということである。

Extracorporeal Membrane Oxygenation for 2009 Influenza A(H1N1) Acute Respiratory Distress Syndrome.
JAMA. 2009;302(17):1888-1895

2009年に発生した新型インフルエンザA (H1N1)による、多くのICU入室症例があった。特に南半球の冬期にICU入室に至る患者が多く発生した。新型インフルエンザによるICU入室例ではARDSを発症する割合が高く、一部の症例では通常の方法では管理しきれず、ECMOを要した。

本研究はインフルエンザA (H1N1)にARDSを併発した患者(201名)を対象とした前向き観測研究で、オーストラリアおよびニュージーランドに所在するICU 15施設で行われた。従来法で管理された患者は133名、ECMOが実施された患者は68名であった。従来法で管理された患者と比べ、ECMOが行われた患者の方が若く(36歳 vs 44歳, P=0.02)、基礎疾患が少なく(P=0.02)、昇圧薬を要する患者の占める割合が高かった(57% vs 34%, P=0.02)。ECMO実施例では開始直前のARDSの程度が重篤であった:肺保護人工呼吸でP/F 55、67%の患者にリクルートメント手技、20%の患者に腹臥位、5%の患者にHFOV、32%にNO投与、22%にプロスタサイクリンが投与された。患者の93%において静脈脱血-静脈返血でECMOが行われた。ECMO実施期間中央値は10日で、開始24時間後回路血流の中央値は4.9L/minであった。ECMO中の出血性合併症および感染性合併症はそれぞれ患者の54%および62%に発生した。従来法で管理された患者と比べ、ECMOが行われた患者では、人工呼吸期間が長く(18日 vs 8日, P=0.001)、ICU滞在日数が長く(22日 vs 12日, P=0.001)、死亡率が高かった(23% vs 9%, P=0.01)。ECMO群では死亡例の74%において、出血性合併症が死因に関与していた。

解説
本研究には様々な問題点(無作為化、ECMO開始時期、患者転送など)があるが、従来法群もECMO群も死亡率が低かった。ARDS併発例では、他の臓器不全が発生するのを待たずに速やかにECMOを導入すると転帰が改善するのではないかと推察される。ただし、この推論の当否については今後の検証が必要である。

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