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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常⑨ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

凝固能検査と手術・観血的手技

凝固能検査は一般的に、凝固能が適切に機能しているかどうかを評価したり、手術や侵襲的手技が安全に行えるかどうかを見極めたりするために行われる。特に、抗凝固薬を内服している患者や、肝不全のように凝固能に異常を来す疾患のある患者ではこのような目的で凝固能検査が実施される。特定の手技における「許容範囲内」の凝固能(または抗凝固状態)の程度は、手技の特性(予定手術 vsベッドサイドで行う緊急手技)と、凝固能異常の是正の難易度および安全性によって左右される。重症患者が予定手術を受けることはまずないので、以下では準緊急および緊急手技について述べる。血栓性疾患の治療が行われている患者において凝固能異常の是正が安全かどうかを判断する際には、抗凝固作用を保ったままで手技を行う場合の出血リスクと、抗凝固療法を中止する場合の血栓形成リスクの双方を評価しなければならない。出血リスクには数多くの要因が関与している。例えば、年齢、基礎疾患、抗凝固療法の強度、手術または手技の種類などである。長時間を要する複雑な手術や、緊急手術・手技は、短時間で終わる小手術やベッドサイド手技よりも重大な出血が発生する危険性が高い。内視鏡を行う場合、単なる観察や簡単な生検を行うのであれば出血リスクは低いと考えられる。反対に、経皮的チューブ挿入、拡張術、括約筋切除、穿刺吸引細胞診などを行うのであれば出血リスクは高い。内視鏡で観察してからでないとどんな手技を行うかが決定されない場合は、実施する可能性のある範囲内で最も侵襲の高い手技に合わせて凝固能を管理する。重篤な血栓性疾患または血栓形成傾向のある患者では、普段の抗凝固療法を中止し、手技の前後は短時間作用性の抗凝固薬を使用することがある。この場合、手技の前後には頻繁に凝固能検査を行いモニタリングする必要がある。

侵襲的手技を安全に行うことができるPT-INRやAPTTの値は、複雑な問題であるだけに、主に臨床経験に基づいた見解によって決められている。通常、手術および多くの侵襲的ベッドサイド手技を行う際にはPT-INRが1.5以下であることが望ましい。腹腔穿刺、胸腔穿刺および鎖骨下静脈以外の中心静脈カテーテル留置は、緊急性があればPT-INRが1.5を超えていても実施されることがある。しかし、PT-INRが2を超える場合には、緊急性があってもできれば避けるべきである。FFPやビタミンKなどを投与すればPT-INRは低下する。ビタミンK拮抗薬(ワーファリンなど)や低栄養のせいでPT-INRが上昇している場合には、ビタミンKの投与がとりわけ有効である。臨床ではビタミンKを10mg投与するやり方が広く行われているが、大半の症例ではもっと少ない量(1~2mg)でもPT-INRを十分回復させることができる。APTT延長のよくある原因はヘパリン投与であり、この場合は通常、ヘパリン投与を中止してAPTTの是正が図られる。未分画ヘパリンは手技の少なくとも1時間前には投与を中止する。低分子量ヘパリンは、12時間前に中止する。未分画ヘパリンも低分子量ヘパリンも、手技終了後に止血が確認されれば再開してよい。未分画ヘパリンの作用を急いで拮抗しなければならないときは、体内残存ヘパリン100単位につき硫酸プロタミン1mgを投与する。低分子量ヘパリンの場合はこのようなことはあまりないが、未分画ヘパリンと同様に硫酸プロタミンで拮抗可能である。だが、フォンダパリヌクスはプロタミンでは拮抗できない。

まとめ

重症患者では凝固能検査の異常値が認められることが多い。生憎、その大部分はアーチファクトである。もし検査結果の異常が真実の反映であれば、出血や血栓などの合併症が発生する可能性があり、患者の転帰が悪化することを意味する。重症患者では可溶性凝固因子の異常は、血小板減少よりも頻度は低いが起こらないというわけではない。血小板減少and/or凝固時間の延長は、出血の危険性があることを意味するため、診断や治療のための観血的手技が回避されることもある。凝固能検査の限界や、異常値が出る原因、および実際に得られた結果を深く理解すれば、重症患者の凝固能障害を正しく診断し治療することができるようになるだろう。

教訓 手術および観血的ベッドサイド手技を行う際のPT-INR目標値は1.5以下です。2を超えているときは、緊急性があってもなるべく避けるのが無難です。未分画ヘパリンは手技の少なくとも1時間前には投与を中止し、低分子量ヘパリンは、12時間前に中止します。
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