SSブログ

重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常⑧ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

ヘパリン類のモニタリング

APTTは診断に利用されるだけでなく、ヘパリン、ヒルジン、レピルジン、ビバリルジンおよびアルガトロバンなどの抗凝固薬のモニタリングにもよく用いられている。未分画ヘパリンはアンチトロンビンと結合し第Ⅱ、Ⅸ、Ⅹ、XⅠ、XⅡ因子の活性を阻害する。したがって、未分画ヘパリン持続静注時の抗凝固作用の監視にはAPTTを用いる。ヘパリンは組織因子経路(外因系)に属する第Ⅹ因子および第Ⅱ因子の作用を阻害するのに、PTはヘパリンによっては延長しないと誤解している者がいる。この理由は簡単には説明できないが、PTの検査法の中にはヘパリン中和物質を用いる方法があることや、そうでない検査法の場合にはヘパリンが組織因子経路よりも接触活性化経路により強く作用することが誤解を生む原因となっている。APTTにはヘパリン以外にも様々な要因が影響を及ぼすので、ヘパリン類の効果をモニタリングする理想的な方法とは言えない。例えば、フィブリノゲンをはじめとする多くの急性相反応物質には、未分画ヘパリンと結合しその作用を打ち消す働きがある。さらに、第Ⅷ因子は急性相反応物質であるとともに、in vitroではAPTTを短縮する作用を持っているので、誤って未分画ヘパリンの効きが悪いと判断される原因となり得る。このような例では、抗Ⅹa活性検査またはヘパリン血中濃度測定を行えば抗凝固の程度を判断することができる。アンチトロンビンが欠乏している患者はヘパリン抵抗性を呈する。しかし、ヘパリン抵抗性が出現する原因は、アンチトロンビン欠乏症であることよりも、ヘパリン投与量の不足や、非特異的な急性相反応物質の存在であることの方が多い。検査室によってばらつきはあるが、ヘパリン類使用時のAPTT目標値は正常値の1.5~2.5倍である。このAPTTの値は抗Ⅹa活性検査だと概ね0.3-0.7単位/mLに相当する。抗凝固作用が迅速かつ良好に得られていることを確認するには、ヘパリンを投与しはじめてからおよそ6時間後にAPTTを測定しなければならない。ヘパリン投与量プロトコルを用いると、迅速かつ安全に適切な抗凝固療法を行うことができる。どんな種類のヘパリンも、少しは腎から排泄される。したがってGFRが30-50mL/minを下回る場合はヘパリン投与量を減らす必要がある。低分子量ヘパリンについては、添付文書に従って病態による投与量の調節を行い、モニタリングが必要な場合は抗Ⅹa活性検査を行わなければならない。低分子量ヘパリンは第Ⅹa因子を阻害するが、トロンビンにはほとんど影響を及ぼさないので、APTTをあまり延長させない。トロンビン以外の凝固因子の変化については、APTTの反応は敏感ではないのである。しかし、一定量の低分子量ヘパリンによる抗凝固作用は、患者の体重と非常に良く相関するので、通常は低分子量ヘパリンについてはモニタリング検査を行う必要はない。未分画ヘパリンの場合はAPTTを測定すればたいていは十分であるが、ヘパリン必要量が多いと感じられるときは、実際の抗凝固作用の強さをよりよく反映する抗Ⅹa活性検査またはヘパリン血中濃度測定を行うとよい。重症患者における低分子量ヘパリンの薬力学は詳しくは分かっていない。重症患者ではバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)が低下しているとか、腎不全があっても低分子量ヘパリンは蓄積しないという報告がある。

ヒルジン、レピルジン、ビバリルジンおよびアルガトロバンは活性化第Ⅱ因子(トロンビン)を阻害するので、APTTで抗凝固作用をモニタリングすることができる。ビバリルジンは主に心臓およぶ血管インターベンション時に主に使用され、APTTで抗凝固のモニタリングが可能であるもののACTが用いられていることが多い。また、腎不全症例以外では、ビバリルジン使用時に抗凝固作用のモニタリングが必要になることはほとんどない。抗凝固薬の血中濃度とAPTTのあいだにはきれいな相関は認められないというデータが得られていて、血中濃度が高くてもAPTTはそれほど延びない。上述の抗凝固薬を使用する際は、各薬剤の特徴を熟知しなければならない。原則は未分画ヘパリンのときと同様で、APTTの目標値は基準値の1.5-3倍である。投与開始から約3-4時間後にモニタリングを開始し、APTTが目標値に達し安定したら測定頻度を減らせばよい。目標値で安定したら、腎機能に変化が認められない限り、一日一回の測定で十分である。ヘパリンと同様に、ヒルジンとレピルジンの投与量は腎不全症例では減らさなければならない。ビバリルジンは主に血漿中のペプチダーゼによって分解され、一部が腎排泄である。したがって、腎不全でも投与量を減らす必要はあまりない。一方、アルガトロバンは主に肝排泄なので、肝不全患者では投与量を減らさなければならない。

教訓 未分画ヘパリン持続静注時の抗凝固作用の監視にはAPTTを測定します。APTT目標値は正常値の1.5~2.5倍です。ヘパリンを投与しはじめてからおよそ6時間後にAPTTを測定します。GFRが30-50mL/minを下回る場合はヘパリン投与量を減らす必要があります。通常は低分子量ヘパリンについてはモニタリング検査を行う必要はありません。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。