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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常③ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

特殊検査

心カテ室のように凝固能を逐次評価しなければならない場所では、活性化凝固時間(ACT)がよく用いられる。特に、未分画ヘパリンやビバリルジンの抗凝固作用の評価にはACTの測定が行われることが多い。ACTは、全血に活性化物質(例;セライト、カオリン、ガラス粒子)を加え凝血塊ができるまでの時間を計測する検査である。つまり、凝固因子と血小板機能をまとめて評価する非特異的な検査である。試薬も凝血塊検出法(例;凝血塊の外力による変形耐性を測定する方法、血液の電気的もしくは機械的性質の変化を測定する方法)も標準化されていないので、検査装置が異なれば同じ検体でも結果は異なる。また、ACTはAPTT、PTおよび抗Ⅹa活性検査の結果とはあまり相関しない。

Figure 2に示す如く、共通系経路に関わる第X、Ⅴ、Ⅱおよびフィブリノゲンに異常があればPTもAPTTも延長する。これらのいずれの凝固因子に異常があるのかを知ることが臨床的に必要であれば、以下に挙げる追加検査を行う:ラッセル蛇毒法、トロンビン時間(TT)またはレプチラーゼ時間。ラッセル蛇毒法は、第X因子を直接的に活性化し共通系の全過程を評価する方法である。TTとレプチラーゼ時間は、外から添加したトロンビンによってフィブリノゲンからフィブリンが形成される速度を測定するものである。つまり、フィブリノゲンの量と機能のみを評価する検査であり、低フィブリノゲン血症もしくはフィブリノゲン異常症の患者を同定するのに役立つ。レプチラーゼ時間とTTの主な違いは、レプチラーゼ時間はヘパリンの有無によって値が変化しない点である。フィブリノゲン量は直接測定することによって評価することもできる。大量輸血後に低フィブリノゲン血症が疑われる場合には、以上の検査が有用なことがある。

出血時間は比較的雑駁な検査である。標準化された皮切をランセットで加え、ガーゼを軽く押し当てながら血液が固まるまでの時間を計測する。出血時間は、組織の統合性、血小板機能および凝固因子を複合的に評価する方法であり、特に血小板機能をみるのに有用であるとされている。しかし、検査法によって結果が大きく左右され、他のin vitro検査とあまり相関しない。ただし例外として、血小板数が50×10^9/L未満になれば出血時間は必ず延長することが知られている。出血時間はICUではほとんど行われなくなった。実施が難しく、人手を煩わし、臨床的に出血を予測するには心許ないからである。

線溶の検査

「フィブリン分解産物」(FDP)という用語は、フィブリンおよびフィブリノゲンがプラスミンの酵素作用によって分解された産物の総称である。DダイマーはFDPの一つをあらわす特異的な用語である。できあがった凝血塊のフィブリンが分解されて出現する物質であり、それ以外の場合に検出されることはない。非特異的なFDPやfibrin split-productは、凝血塊がなくても検出されることがある。DダイマーにしてもFDPにしても、残念ながら特異度が低く、血栓性疾患(静脈血栓塞栓症、心筋梗塞、DICなど)の患者で検出されるにとどまらず、術後患者、癌患者および妊婦でも上昇が認められることがある。慢性肝疾患患者では肝臓によるFDPの処理が障害され、FDPが上昇することがある。以上から、ICUではFDP検査の有用性はあまり高くない。市販されている検査キットには様々な種類のものがあり(ラテックスまたは赤血球凝集、ELISAなど)、感度に大きなばらつきがある。血栓塞栓症を除外するためにDダイマー検査を行う場合は、偽陰性の結果が出ることを避けるため、特に感度の高い検査方法を採用する必要がある。ラテックス凝集法を用いた検査は感度が最も低く、ELISA法は感度が最も高い。ただし、ELISA法は時間もお金もかかる。

凝固能検査異常値の原因

凝固能検査で異常値が得られた場合、生理的な問題や検査手法の間違いが原因であることよりも、不適切な検体採取に起因することの方が多い。このいわゆる「検査前エラー」は、いくつかのありがちな原因によって引き起こされる(Table 2)。APTTとPTを正確に測定するには、専用の採血管を用い、血漿と採血管内の抗凝固剤(通常、クエン酸ナトリウム)が1:9の割合となるようにしなければならない。採血管内の血漿量が足りなければ、APTTもPTも真の値よりも延長した結果になる。反対に、採血管内の血漿量が多すぎれば、真の値よりも短縮した結果が出る。さらに、多血症の場合には、正常ヘマトクリットのときよりも血漿量が少ない。したがって、抗凝固剤の量が相対的に多すぎることになり、APTTとPTが真の値より延長する。採血中に別の抗凝固剤が混入してしまえば、それもエラーの原因となり得る。抗凝固剤の混入には二つのパターンがある:ヘパリンの入ったカテーテルを用いて採血した場合と、用いる採血管を間違えて凝固検査用の採血管に血液を移し替えた場合。例えば、紫キャップの採血管(EDTAが入っている)または緑キャップの採血管(ヘパリンが入っている)に血液検体を注入し、間違いに気づいてクエン酸入りの採血管に血液を移し替えて検査を行えば、PTおよびAPTTは本当の値よりも延長してしまう。血液が迅速かつ静かにクエン酸と混和されなければ、それもまた検査値に影響を与える。例えば、はじめに抗凝固剤の入っていない採血管内に血液を採取し、その後、凝固検査用の採血管内にその検体を移し替え、抗凝固剤と混和されるまでに時間が余計にかかったり、凝固検査用の採血管内に血液を採取しても混和するのを忘れたりすれば、いずれもPTとAPTTは真の値よりも延長する。一方、溶血が生じたり、血液と抗凝固剤を乱暴に混和したりすれば、PTとAPTTは真の値よりも短縮する。また、駆血時間が長すぎると、フォンウィルブランド因子(vWF)および第Ⅷ因子濃度が上昇し、PTとAPTTが実際より短縮した結果になる。第Ⅶ因子は温度に敏感で、検体を冷やすとPTは真の値より短縮するが、APTTは変化しない。ただし、患者にヘパリンが投与されていればAPTTは延長する。PTとAPTTは血小板を除去した血漿を用いて測定するので、血小板減少症があってもin vitro検査であるPTおよびAPTTの値には影響を及ぼさない。

教訓 PT/APTT用の採血をするときは、駆血帯をきつく締めすぎてはいけません。採血管内には、指定された量の血液を正確に注入し、静かに混和しなければなりません。冷やしてもいけません。
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