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重症患者の凝固能低下~血小板の異常⑥ [critical care]

Coagulopathy in Critically Ill Patients Part 1: Platelet Disorders

CHEST 2009年12月号より

血小板機能の異常

血小板数が正常でも、抗血小板薬の投与、腎不全または先天性の血小板異常によって血小板活性が低下することがある。血算で血小板数を計測しても、血小板機能の異常を突き止めることはできない。臨床的には、血小板機能が低下していると、粘膜もしくは皮下異常出血が認められる。具体的には、鼻出血、歯肉出血、皮膚点状出血・出血斑、過多月経などである。血小板機能異常が疑われるときには、血小板が凝集し凝血塊を形成する機能を調べる検査を行う。このうち、もっとも簡単な検査は出血時間である。残念ながら、出血時間は再現性が乏しく、感度が低く、時間を食う検査である。出血時間に代わり、薬剤を添加し血小板凝集能を測定する新しい検査法が開発されている。その多くは、特定の検査施設のみで行われるものであり、臨床的に広く実施可能な検査ではない。血小板凝集能検査の詳細については、他文献に譲る。

血小板機能の低下を招く薬剤の代表は、不可逆性に血小板凝集を阻害するアスピリンや、可逆性に血小板機能を阻害する各種シクロオキシゲナーゼ阻害薬である。グリコプロテインⅡb/Ⅲa阻害薬(アブキシマブ、チロフィバン、エプチフィバチドなど)は単独もしくはアスピリンとの併用で、PCI後の血栓閉塞を予防する目的で使用される。グリコプロテインⅡb/Ⅲa阻害薬は血小板機能を大幅に低下させる。中でもアブキシマブの作用は、新しい血小板が産生されるまで残る。クロピドグレルは、グリコプロテインⅡb/Ⅲa阻害薬と似たような作用を発揮する薬剤で、ADPによる血小板凝集を阻害する。以上のような薬剤を投与されている患者が出血した場合には、休薬するだけでは血小板機能が正常には戻らないため、血小板輸血を要することがある。

ESRD患者では軽度の血小板減少症が認められることがあるが、数が正常で血小板機能が低下している患者の方が多い。この「尿毒症性凝固能障害」の病態生理の解明は、未だ完全ではないが、複数の機序の関与が指摘されている。エリスロポエチン産生の低下による赤血球量の減少のため、血小板が血管内で血流の中心により近い部分を流れるようになり、血管内皮の障害部分と反応しにくくなるという説がある。また、尿毒症毒素がvWFおよびvWF-第Ⅷ因子複合体の作用を低下させ、血小板凝集を阻害することも分かっている。維持透析患者の出血には多角的な対処を講ずる必要がある。例えば、緊急透析を行い尿毒症毒素を除去したり、デスモプレシンを静注し血管内皮内に蓄えられている第Ⅷ因子の放出を促しvWF機能低下の影響を抑止したり、抱合エストロゲンを(男女問わず)静注し凝固能を高めたり、場合によってはクリオプレシピテートを投与し正常な機能を有する第Ⅷ因子、vWF、およびフィブリノゲンを増やしたりする。もちろん、血小板数が極度に低下している場合は、血小板輸血の適応がある。

非常に稀な以下の三つの先天性疾患でも血小板異常が認められる:vWFの受容体である GPⅠb-Ⅸ-Ⅴ複合体が欠損するBernard-Soulier症候群、GP Ⅱb/Ⅲa受容体が欠損するGlanzmann血小板無力症、血小板顆粒内貯蔵物(ADP)が不足するHermansky-Pudlak症候群。以上のような稀な疾患とは異なり、フォンヴィルブランド病(vWD)は比較的よく見られる疾患である。その病態生理は、血小板と可溶性凝固因子の両者にまたがっている。幸い、いずれの型のvWDであっても臨床的に重大な出血はごく稀であり、通常は粘膜表面の出血にとどまる。vWDはいくつかの型に大別され、vWFの量や機能、または血小板のGP Ⅰb受容体とvWFとの結合能によって複数の亜型に分類される。詳しくは別の文献に譲る。あざができやすかったり、出血しやすかったり、粘膜表面からの出血がなかなか止まらなかったりする患者を前にvWDの可能性が浮かんできた場合は、出血性疾患の専門家への紹介が必要である。

まとめ

重症患者では血小板減少症は珍しいものではない。さらに、尿毒症やvWDなどの基礎疾患がある患者では、数は正常でも血小板機能が低下していることがある。軽度の血小板減少症では出血の危険性はそれほど上昇しないが、高度の血小板減少症があれば出血の危険性も死亡率も上昇する。ICUにおいて最も頻度の高い凝固能障害が血小板減少症であるが、その病因にはいくつもの要素が関わっている。例えば、疾患の重症度、使用薬剤、血栓形成による消費などである。血小板減少症があらわれても、原疾患の治療によって血小板数は増えることが多いが、血小板減少症の原因と対処法を深く知れば、重症患者の血小板数の回復を促し、侵襲的手技や血小板輸血の機会を減らすことにつながる可能性がある。

教訓 血小板機能が低下していると、粘膜もしくは皮下異常出血が認められます。鼻出血、歯肉出血、皮膚点状出血・出血斑、過多月経などが典型的な徴候です。ESRD患者では軽度の血小板減少症が認められることもありますが、多くの場合は数が正常で血小板機能が低下しています。
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