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重症患者の凝固能低下~血小板の異常⑤ [critical care]

Coagulopathy in Critically Ill Patients Part 1: Platelet Disorders

CHEST 2009年12月号より

希釈性血小板減少症

大量輸血を行うと、希釈性血小板減少症と可溶性凝固因子欠乏が起こる。その機序は、単なる喪失と、消費されるのに適切に補充されないことの二つである。希釈性血小板減少症を発生させしめる輸血量については、はっきりしたことは言えないが、一日で循環血液量分の輸血を行うか、3-4時間で循環血液量の半分の輸血を行えば、希釈性凝固障害が起こる可能性が高い。希釈性凝固障害の発生はいろいろな条件に大きく左右されるため、各血液製剤の投与時期および投与量を一定の方法に決める輸血方法は実状にそぐわない。軽度の血小板減少症の原因が希釈であることもあろう、と思ってもおかしくはないが、実際は20単位以上の血液製剤を輸血しても、それだけで血小板数が100×10^9/Lを下回ることは稀である。希釈性凝固障害には、冷たい輸液製剤の大量投与による低体温、末梢循環不全や酸の投与によるアシドーシス、そして場合によってはDICを伴うことが多い。低体温は、血小板の活性化、接着および凝集を阻害し、可溶性凝固因子の酵素活性を低下させる。したがって低体温は凝固能障害の増悪因子として作用する。

分布異常による血小板減少症

門脈圧亢進症などによる高度の脾腫がある患者では、血小板が捕捉され分布異常による血小板減少症が起こることがある。その機序には、「脾臓内貯溜」、血小板産生能の低下そして免疫が関与する血小板破壊(特にITP症例)など複数の要因が関わっていると考えられている。肝硬変による門脈圧亢進症がある患者では、肝臓で生成されるトロンボポエチンの減少や、エタノールの骨髄毒性により血小板産生が低下することがある。

血小板産生の低下

骨髄抑制があれば造血3系統のすべての産生が低下するが、血小板減少症が一番目立つ所見であることが多い。血小板は寿命が比較的短いからである。特に、血小板の消費が亢進すれば寿命はより短くなる。骨髄抑制の主犯格は薬剤である(Table 3)。骨髄抑制を呈する症例では、患者が服用している薬剤を、市販薬を含め全て完全に明らかにし、原因と考えられる薬剤を可能であれば中止すべきである。抗腫瘍薬や免疫抑制剤が量依存的に骨髄抑制作用を発揮することは、広く認識されている。しかし、それ以外の薬剤、例えばリネゾリド(抗菌薬)も血小板産生を低下させることがある。血小板減少症を引き起こす可能性についてしばしば言及される薬剤(例;プロトンポンプ阻害薬)の中には、実際にはそれを裏付けるエビデンスに乏しいものもある。ウイルス感染(例;HIV、パルボウイルス、EBウイルス、水痘ウイルス)、毒物(例;アルコール、放射線治療)、転移性悪性腫瘍および栄養不良(例;ビタミンB12、葉酸、鉄)も骨髄抑制を引き起こすことがある。

Table 3に掲載されている薬剤

抗菌薬
ペニシリン、バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシン、メロペネム、ST合剤、ニトロフラントイン、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、フルコナゾール、リファンピシン

ヘパリンおよび低分子量ヘパリン

H2受容体阻害薬
シメチジン、ラニチジン

NSAIDs
アスピリン、ジクロフェナク、イブプロフェン

GP Ⅱb/Ⅲa阻害薬
アブキシマブ、チロフィバン、エプチフィバチド、チクロピジン、クロピドグレル

抗不整脈薬
プロカインアミド、アミオダロン

抗てんかん薬
バルプロ酸、カルバマゼピン、フェニトイン

その他
ジゴキシン、フロセミド、サイアザイド、ハロペリドール、モルヒネ


教訓 一日で循環血液量分の輸血を行うか、3-4時間で循環血液量の半分の輸血を行ったときは、希釈性凝固障害の発生について注意しなければなりません。
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