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重症患者の凝固能低下~血小板の異常② [critical care]

Coagulopathy in Critically Ill Patients Part 1: Platelet Disorders

CHEST 2009年12月号より

血小板減少症の定義と影響

昔ながらの定義では、血小板減少症とは血小板数が150×10^9/L未満の場合を指す。しかし、重症患者ではこの定義だと血小板減少症の発生頻度がかなり高くなり、また、血小板数が100~150×10^9/Lであっても重篤な出血は起こらない。したがって重症患者においては血小板減少症の血小板数閾値を100×10^9/L未満とすべきであるという意見がある。重症血小板減少症(血小板数50×10^9/L未満)という区分もあるが、これほど血小板数が低下することは幸いにして稀であり、ICU患者では2~15%に発生するに過ぎない。

血小板数減少症に注目しなければならないのは、出血の危険性が増大するため治療計画に変更を要することがあったり、重篤な合併症の発生率や死亡率の上昇につながったりするからである。ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)や播種性血管内凝固症候群(DIC)などに代表される血液凝固が促進される疾患の一徴候として、血小板減少症があらわれることもある。出血の危険性が有意に増大する血小板数閾値についてはいろいろな意見があるところだが、血小板数が概ね100×10^9/Lをややもしくは大幅に下回る場合には出血リスクとして捉えるべきである。ICUでは、血小板数が100×10^9/L未満であると、100~150×10^9/Lのときと比較し、出血のリスクは10倍に跳ね上がるとされている。血小板数が少ないほど出血の危険性は上昇し、特に50×10^9/L未満ではその傾向が顕著である。また、稀ではあるが血小板数が10×10^9/L未満まで低下すると、特発性脳出血が合併することがある。

血小板減少症患者の管理に際しては、従来からのやり方を踏襲して治療が行われていることが多い。血小板数が50×10^9/L未満の場合、侵襲的手技は通常は回避される。時には50~100×10^9/Lであっても、硬膜外麻酔や脊髄クモ膜下麻酔あるいは重要臓器やアクセスが困難な部位に対する手技は回避されることがある。可溶性凝固因子に異常がない患者で侵襲的手技を要さない場合は、この程度の血小板数減少であれば特に対策を講ずる必要はない。外科的出血は血小板数が50×10^9/Lを上回っていれば通常は制御可能であり、腫瘍学領域の研究では、血小板数が20×10^9/L未満、あるいはおそらく10×10^9/L未満にまで低下しなければ特発性出血の危険性は上昇しないことが明らかにされている。再生不良性貧血の患者にあっては、この閾値は5×10^9/Lにまで下がる。そして驚くべきことに、重症敗血症患者に抗凝固薬である活性化プロテインCを投与しても、侵襲的手技を行わないのであれば、血小板数が30×10^9/L未満まで低下しなければ出血性合併症発生率は有意な上昇を示さない。

血小板が減少している患者を前にして出血を憂慮するのは頷けることではあるが、多くの場合、血小板減少症患者は血小板製剤を輸血されるリスクに必要以上に曝されている。皮肉にも血小板輸血を行うと、輸血された血小板表面のc-Mpl受容体に肝臓が生成するトロンボポエチンが結合し、トロンボポエチンが不活化されるので、患者自身の血小板産生が抑制されてしまう。血小板輸血には、さらに他にも合併症がある。血小板製剤は献血によって得られた血液をもとに作られる。したがって、非常に低いとはいえ、HIVや肝炎ウイルスなどに感染するリスクがある。また、血小板製剤の使用によっても、TRALI(輸血関連肺傷害)が発生することがある。そして、血小板には血液凝固を促進する働きがあり、まさにそれが出血患者や出血リスクのある患者に血小板製剤が投与される理由である。しかし一方で、患者によっては血小板製剤の投与で、実際に血液凝固が過度に起こったり、深部静脈血栓が発生したりすることがある。

多くの重症患者において血小板数を増やすために血小板輸血が行われているが、ある種の患者群では血小板輸血が無効もしくは禁忌である。血栓形成傾向を伴う血小板減少症、例えば血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)やHITなどでは、血小板輸血により上述の合併症のおそれが生ずるだけでなく、血栓形成傾向が増悪する。DICでは、凝血塊が大量に形成され、かつそれが盛んに分解されるため血小板が減少する。このような病態では、血小板輸血よりもDICの原因疾患の治療を優先させなければならない。同様に、HITでは凝血塊が形成されないように抗凝固薬を投与するとともに、ヘパリンを中止するのが治療法である。

血小板減少症があると、出血とは関係なく臨床転帰が悪化することが複数の研究で一貫して示されている。例えば、血小板数が少ないとICU滞在日数および入院期間が長くなることが分かっている。また、血小板数低下は、ICU死亡率および長期生存率低下の独立予測因子であることが明らかにされている。血小板数が少ないほど、重症患者の生存率も低下し、4日以上継続して血小板減少症を呈する症例では死亡率が4~6倍に上昇することが示されている。血小板減少症と転帰不良の相関は、DIC診断基準を満たす患者では特に顕著に認められる。血小板減少症と転帰不良が相関することの理由はよく分かっていないが、血小板減少症をきたす疾患(例;重症敗血症、悪性腫瘍)の重症度が関与している推測されている。

教訓 重症敗血症患者に活性化プロテインCを投与しても、侵襲的手技を行わないのであれば、血小板数が30×10^9/L未満まで低下しなければ出血性合併症の発生率は上昇しません。
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