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重症患者の凝固能低下~血小板の異常③ [critical care]

Coagulopathy in Critically Ill Patients Part 1: Platelet Disorders

CHEST 2009年12月号より

病因

ICU患者における血小板減少症の発生には、複数の要因が関わり、以下の四つの機序がいくつか組み合わさっていることが多い:血小板破壊または消費の亢進、血小板産生減少、希釈、捕捉(sequestration)。

偽性血小板減少症
血小板減少症を評価する際の第一歩は、検査結果が本当に血小板数の低下を意味しているのかどうかを確かめることである。偽性血小板減少症もしくは仮性血小板減少症は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)依存性の抗血小板抗体または抗凝固剤不足により採血管内で血小板が凝集して発生する。抗体ができる理由は不明である。ただ、重症敗血症、自己免疫疾患、悪性腫瘍または肝疾患の患者で発生することが多い。結果的に、自動計数装置では血小板凝集を検出することはできず、異常に大きい血小板があると認識し、誤って血小板数を少なく計上してしまう。検査所見が臨床像とそぐわなかったり、末梢血スメアで血小板凝集が認められたりすれば、偽性血小板減少症が疑われる。この場合は、ヘパリンまたはクエン酸入り採血管に血液検体を再度採取する。そして、自動計数装置and/or顕微鏡下で計数を行う。血小板の大きさは、血小板減少症の病因を突き止めるための情報の一つである。血小板が大きい場合は、骨髄における血小板産生は正常で、血小板寿命が短くなっていることを意味する(例;特発性血小板減少性紫斑病)。血小板が小さい場合は、血小板産生に異常がある可能性が高い。

血小板破壊または消費の亢進
血小板破壊の亢進は血小板減少症の機序としてもっとも頻度が高く、免疫を介した経路でも、それ以外の経路でも起こりうる。免疫が関わらない機序には、DICと物理的破壊(人工心肺や巨大血管腫など)がある。物理的破壊は、特異的な抗体によって起こるわけではないと考えられているが、免疫が関係する未知の機序を介している場合もあると指摘されている。また、物理的破壊が生ずる状況における血小板数減少症は、凝血塊が大量に生成され血小板が消費されることが主因のこともある。

DIC、TTPおよびHELLP症候群
DICには通常、血小板数の低下だけでなく、凝固と線溶の亢進を示す徴候が伴う。例えば、フィブリノゲン濃度の低下やDダイマーなどのフィブリン分解産物の増加である。多くの場合、APTTやPTは延長する。ICU入室後に発生することは稀ではあるが、入室時にすでにTTPやHUSなどの血栓性微小血管障害を発症していることがある。この場合、vWF切断酵素の欠損により異常に大きいvWF多量体(UL-VWFM)が出現し過剰な血小板凝集が起こることによって血小板数が低下する。多くの場合著明な血小板減少症を呈し、LDHが上昇し、末梢血スメアでは赤血球の機械的破壊を示す破砕赤血球が認められる。TTP/HUSと言えば「古典的五徴」(発熱、溶血性貧血、血小板減少、中枢神経症状、腎障害)が有名だが、診断に必須なのは微小血管障害性溶血性貧血と血小板減少症のみである。癌、妊娠、抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫疾患、肺炎球菌感染症などの数多くの疾患が「TTP様」症候群を伴うことがある。同じく、サイクロスポリン、クロピドグレル、およびある種の抗腫瘍薬などでも「TTP様」症候群が発症することがある。DICでもTTP/HUSと同様に末梢血スメアで破砕赤血球が認められることがあるが、TTP/HUSの患者ではAPTTまたはPTの延長が認められないので、これがDICとの鑑別の決め手となり得る。残念ながら、凝固系パラメータの異常は必ずしもDIC全例で認められるわけではないので、両者の鑑別が困難なこともある。DIC患者ではフィブリノゲン濃度低下やトロンビン時間延長が認められることが多いが、TTP/HUSでは滅多に見られない(Table 2)。体温>39℃であれば、これもDICとTTP/HUSの鑑別に役立つことがある。というのも、TTP/HUSの発熱はほぼ必ず微熱だからである。溶血、肝酵素上昇および血小板数低下を呈するHELLP症候群は妊婦の疾患で、溶血と血小板減少症の両者を示すためTTP/HUSとの鑑別が困難なことがある(Table 2)。肝酵素上昇の有無が鑑別に資するかもしれないが、妊娠の有無はあまり参考にならない。妊娠はTTPの危険因子でもあるからである。しかし、HELLP症候群はほとんどが妊娠後期に発生するので、妊娠20週以前の血小板減少症がHELLP症候群によるものであることはほぼ絶無である。HELLP症候群は通常出産後72時間以内に終息するので、72時間経過しても血小板減少症が改善傾向を示さない場合は、TTPを強く疑いただちに対処しなければならない。

教訓 血小板減少症の発生には、多くの場合、血小板破壊または消費の亢進、血小板産生減少、希釈、捕捉の4つの機序が複数関与しています。血小板破壊の亢進は血小板減少症の機序としてもっとも頻度が高く、免疫を介した経路でも、それ以外の経路でも起こり得ます。免疫が関わらない機序には、DICと物理的破壊(人工心肺や巨大血管腫など)があります。
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重症患者の凝固能低下~血小板の異常② [critical care]

Coagulopathy in Critically Ill Patients Part 1: Platelet Disorders

CHEST 2009年12月号より

血小板減少症の定義と影響

昔ながらの定義では、血小板減少症とは血小板数が150×10^9/L未満の場合を指す。しかし、重症患者ではこの定義だと血小板減少症の発生頻度がかなり高くなり、また、血小板数が100~150×10^9/Lであっても重篤な出血は起こらない。したがって重症患者においては血小板減少症の血小板数閾値を100×10^9/L未満とすべきであるという意見がある。重症血小板減少症(血小板数50×10^9/L未満)という区分もあるが、これほど血小板数が低下することは幸いにして稀であり、ICU患者では2~15%に発生するに過ぎない。

血小板数減少症に注目しなければならないのは、出血の危険性が増大するため治療計画に変更を要することがあったり、重篤な合併症の発生率や死亡率の上昇につながったりするからである。ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)や播種性血管内凝固症候群(DIC)などに代表される血液凝固が促進される疾患の一徴候として、血小板減少症があらわれることもある。出血の危険性が有意に増大する血小板数閾値についてはいろいろな意見があるところだが、血小板数が概ね100×10^9/Lをややもしくは大幅に下回る場合には出血リスクとして捉えるべきである。ICUでは、血小板数が100×10^9/L未満であると、100~150×10^9/Lのときと比較し、出血のリスクは10倍に跳ね上がるとされている。血小板数が少ないほど出血の危険性は上昇し、特に50×10^9/L未満ではその傾向が顕著である。また、稀ではあるが血小板数が10×10^9/L未満まで低下すると、特発性脳出血が合併することがある。

血小板減少症患者の管理に際しては、従来からのやり方を踏襲して治療が行われていることが多い。血小板数が50×10^9/L未満の場合、侵襲的手技は通常は回避される。時には50~100×10^9/Lであっても、硬膜外麻酔や脊髄クモ膜下麻酔あるいは重要臓器やアクセスが困難な部位に対する手技は回避されることがある。可溶性凝固因子に異常がない患者で侵襲的手技を要さない場合は、この程度の血小板数減少であれば特に対策を講ずる必要はない。外科的出血は血小板数が50×10^9/Lを上回っていれば通常は制御可能であり、腫瘍学領域の研究では、血小板数が20×10^9/L未満、あるいはおそらく10×10^9/L未満にまで低下しなければ特発性出血の危険性は上昇しないことが明らかにされている。再生不良性貧血の患者にあっては、この閾値は5×10^9/Lにまで下がる。そして驚くべきことに、重症敗血症患者に抗凝固薬である活性化プロテインCを投与しても、侵襲的手技を行わないのであれば、血小板数が30×10^9/L未満まで低下しなければ出血性合併症発生率は有意な上昇を示さない。

血小板が減少している患者を前にして出血を憂慮するのは頷けることではあるが、多くの場合、血小板減少症患者は血小板製剤を輸血されるリスクに必要以上に曝されている。皮肉にも血小板輸血を行うと、輸血された血小板表面のc-Mpl受容体に肝臓が生成するトロンボポエチンが結合し、トロンボポエチンが不活化されるので、患者自身の血小板産生が抑制されてしまう。血小板輸血には、さらに他にも合併症がある。血小板製剤は献血によって得られた血液をもとに作られる。したがって、非常に低いとはいえ、HIVや肝炎ウイルスなどに感染するリスクがある。また、血小板製剤の使用によっても、TRALI(輸血関連肺傷害)が発生することがある。そして、血小板には血液凝固を促進する働きがあり、まさにそれが出血患者や出血リスクのある患者に血小板製剤が投与される理由である。しかし一方で、患者によっては血小板製剤の投与で、実際に血液凝固が過度に起こったり、深部静脈血栓が発生したりすることがある。

多くの重症患者において血小板数を増やすために血小板輸血が行われているが、ある種の患者群では血小板輸血が無効もしくは禁忌である。血栓形成傾向を伴う血小板減少症、例えば血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)やHITなどでは、血小板輸血により上述の合併症のおそれが生ずるだけでなく、血栓形成傾向が増悪する。DICでは、凝血塊が大量に形成され、かつそれが盛んに分解されるため血小板が減少する。このような病態では、血小板輸血よりもDICの原因疾患の治療を優先させなければならない。同様に、HITでは凝血塊が形成されないように抗凝固薬を投与するとともに、ヘパリンを中止するのが治療法である。

血小板減少症があると、出血とは関係なく臨床転帰が悪化することが複数の研究で一貫して示されている。例えば、血小板数が少ないとICU滞在日数および入院期間が長くなることが分かっている。また、血小板数低下は、ICU死亡率および長期生存率低下の独立予測因子であることが明らかにされている。血小板数が少ないほど、重症患者の生存率も低下し、4日以上継続して血小板減少症を呈する症例では死亡率が4~6倍に上昇することが示されている。血小板減少症と転帰不良の相関は、DIC診断基準を満たす患者では特に顕著に認められる。血小板減少症と転帰不良が相関することの理由はよく分かっていないが、血小板減少症をきたす疾患(例;重症敗血症、悪性腫瘍)の重症度が関与している推測されている。

教訓 重症敗血症患者に活性化プロテインCを投与しても、侵襲的手技を行わないのであれば、血小板数が30×10^9/L未満まで低下しなければ出血性合併症の発生率は上昇しません。
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