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術後疼痛管理を洗練する③ [anesthesiology]

Improving Postoperative Pain Management: What Are the Unresolved Issues?

Anesthesiology 2010年1月号より

今後の道のり

急性痛の機序に関連する病態生理データの量と、実際の臨床に応用されている科学的エビデンスの量には大きな隔たりがあることを踏まえると、今すぐにでも始められる改善対策は、術式別のエビデンス準拠疼痛管理プロトコル(table 1)を周術期の臨床に導入することである。だが、このような術式別鎮痛法によって転帰を改善するには、迅速な術後回復を目指す方法と組み合わせて実施する必要がある。つまり、従来から行われている急性痛管理手法を理論的に敷衍するということである。現在までに蓄積されたエビデンスでは、疼痛管理の改善が即ち迅速な回復と合併症の減少につながるという考えは裏付けられてはいないが、良好な鎮痛が実現すれば、患者の満足度は確実に向上する。

鎮痛法を改善させることによる利点をいささかも損なわないためには、麻酔科、外科、急性痛管理チームおよび術後看護スタッフが協同し一貫した対応を行う必要がある。したがって、急性痛管理の実態についての全国調査でも指摘されているように、疼痛管理に関するエビデンス準拠ガイドラインを実施するだけでは不十分であり、患者の転帰は期待するほどには改善しない。そこで、各科の医師および周術期ケアに関わる看護責任者、病院管理者、保険会社、政府および規制当局がしっかりと意思疎通を図る必要がある。もう一つ必要なのは、疼痛管理の質を向上できる可能性があることを大衆に知らしめ、手術を受ける患者とその家族に、術後鎮痛の質を高め回復過程を促すために彼ら自身が取り得る行動について教育することである。

以上から、疼痛管理の質を向上させるために直ちに取り得る方策には、組織全体として取り組まなければならない。術式に応じた多角的非オピオイド鎮痛法における必須重要ポイントを明らかにするには、さらに臨床研究を重ねる必要があるのは言うまでもない。将来的には、簡便で、より合理的な、末梢組織(創部とその周囲)を標的とした鎮痛手法によって、急性痛管理が進歩する可能性が高い。末梢組織を標的とした鎮痛手法は簡単に行うことが可能であり、また、疼痛発生部位に直接働きかけるため、脊髄や大脳皮質などの中枢で痛みが変質して伝達されるのを防ぐことができるので、疼痛関連転帰の臨床的改善が得られる可能性がある。臨床応用例としては、心臓手術後に、切開創にカテーテルを留置し局所麻酔薬を持続投与することによって、疼痛を軽減し回復を促進する方法が挙げられる。今後は、長時間作用性局所麻酔薬(デポブピバカイン、ブピバカイン徐放剤[SABER-Bupivacaine]など)の局注やカプサイシン塗布などが広まり、面倒で高価なカテーテルによる持続投与を行わなくても済むようになるかもしれない。

感覚神経終末に存在する新しく発見された受容体(TRPV1など)は、現在使用されているオピオイドや非オピオイド鎮痛薬の作用増強に資する新しい鎮痛薬アジュバントの開発において有用な作用標的であることが明らかにされている。カプサイシンは、トウガラシに含まれる有効成分で、TRPV1結合部位との相互作用によりC線維阻害作用を長時間発揮する。最近では、術後3-4日間にわたり持続的な除痛作用をもたらすことが報告されている。これとは別にもう一つ、新しい種類の鎮痛薬として実用化される可能性があるのは、カンナビノイド受容体-1選択的作働薬である。臨床予備試験のデータでは、「古い薬」(副腎皮質ステロイド[メチルプレドニゾロン、デキサメサゾン]など)であっても、周術期に投与すると、臨床的に問題になるような副作用の発現をきたさずに長時間の鎮痛効果を得ることができる可能性があることが分かっている。

今後の臨床研究によってさらに詳しく解明することが期待される非常に重要なもう一つのテーマは、手術による同じような侵害刺激によっても、それによって生ずる疼痛反応の個人差が大きいのはなぜかということである。手術に先立ち、各患者の疼痛閾値が分かるようになれば、個人差を考慮したよりよい急性痛管理が可能となるであろう。疼痛が起こりにくい(つまり、疼痛閾値が高い)患者では、それほど積極的でないシンプルな術後疼痛管理を行えばよいが、強い疼痛が起こることが予測される患者では洗練された積極的な疼痛管理を行う必要がある。疼痛閾値の高い患者にオピオイドを過度に使用(持続投与など)すると、合併症の増加や、場合によっては術後死亡率の上昇につながる。患者ごとの疼痛閾値レベルの評価には、熱または電気刺激による侵害受容検査や心理社会的検査を術前に行う方法が実用的であるとされている。今後は、遺伝子研究が進めば、疼痛閾値レベルの個人差がより正確に分かるようになったり、鎮痛薬の薬力学に影響を及ぼす特定の遺伝子型が明らかになったりする可能性がある。

教訓 将来的には、末梢組織(創部とその周囲)を標的とした鎮痛手法によって、急性痛管理が進歩する可能性が高いと考えられています。長時間作用性局所麻酔薬やカプサイシンの局所投与が有望です。
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