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術中低血圧と一年後死亡率~方法② [anesthesiology]

Intraoperative Hypotension and 1-Year Mortality after Noncardiac Surgery

Anesthesiology 2009年12月号より

術中低血圧
術中低血圧の定義は、血圧が前もって設定した閾値をある時間下回ることとした。過去に発表されたレビューで取り上げられた文献で広く用いられている閾値を採用した。収縮期血圧の閾値を四つ(100、90、80、70mmHg)、平均血圧の閾値を四つ(70、60、50、40mmHg)、基準時点の収縮期および平均血圧との比較による閾値を四つ(基準値より10、20、30、40%低下)、あわせて16通りの閾値を設定した。以上の閾値を下回る血圧が、一定時間(つまり最短時間)以上継続した場合をIOH発生とした。一定時間とは、1分間、5分間もしくは10分間のいずれかである。全部合わせると48通りのIOH定義について検討したというわけである。一人一人の患者について、以上48通りの定義に従い、IOH持続時間を算出した。つまり、本研究ではIOHを、決められた最短時間よりも長く閾値を下回る血圧が続いた時間(分)の連続変数としてあらわした。

転帰
術後一年以内の全死因死亡率を調べた。手術日から起算した死亡までの時間(日数)を求め、365日を打ち切り観測値とした。追跡調査から漏れた患者については、最終受診日までで追跡を打ち切った。死亡データについては、病院情報システムの利用およびかかりつけ医からの聞き取りによって収集した。

交絡因子の候補
交絡因子となる可能性のある因子について調整し、IOHと一年後死亡率との相関を求めた。年齢、性別、BMI、喫煙、基礎疾患、術式、手術時間および麻酔薬総使用量を、交絡因子となる可能性のある因子と考えた。喫煙については、過去からの総喫煙量や現在の一日喫煙量と無関係に、吸うか、吸わないかで分類した。基礎疾患については、ASA PSおよび心疾患・高血圧・糖尿病・脳血管障害の既往の有無を取り上げた。術式は、血管手術、一般外科大手術(開腹手術)、一般外科小手術(体表面または低侵襲手術)のいずれかに分類した。麻酔薬使用量は、吸入麻酔薬および静脈麻酔薬の投与量とした。吸入麻酔薬(セボフルランまたはイソフルラン)の使用量は、吸気吸入麻酔薬濃度曲線の曲線下面積から算出した。静脈麻酔薬(プロポフォール)の使用量は、予測効果部位濃度曲線の曲線下面積から算出した。効果部位濃度の予測には、Marshモデルを用い、効果部位時定数(ke0)は0.291とした。

統計
はじめにIOHの定義を、収縮期血圧80mmHg未満(閾値)が少なくとも1分間(持続時間)続いたとき、として、IOH有りの患者となしの患者について未調整Kaplan-Meier曲線を作成した。ログランク検定を行いKaplan-Meier曲線間の有意差の有無を確かめた。IOH持続時間についてのハザード比を、Coxの比例ハザード回帰分析で求めた。IOH持続時間と一年後死亡率の相関を、年齢、性別およびその他前述した交絡因子候補で調整して評価した。交絡因子候補とIOHの有無に相関があれば、その因子を交絡因子と決定した。患者が健康であるほど、重度の基礎疾患を有する患者よりも高度の低血圧に耐えうると考えた。患者の背景因子が影響を及ぼす可能性を考慮に入れ、IOHと患者の背景因子との相互作用について検討した。連続変数(IOH持続時間、年齢、手術時間および麻酔薬使用量)については、三次元制限スパイン図を用いて非線型性の検定を行った。Schoenfeld残差プロットにより比例ハザードの仮定の検定を行った。以上の解析過程を、他の15通りのIOH閾値について繰り返した。最終的に以上16通りの解析を、他の最短持続時間である5分間と10分間についても行い、合計48通り(16×3)の解析を実施した。

背景因子の不均一性については、分類および回帰ツリー(classification and regression tree; CART)分析による評価も行った。CART分析は、ノンパラメトリック検定の一手法であり、特定の予測変数について相反する二群を設定し、患者をその条件によってどちらかの群に割り当てていく方法である。CART分析では各変数につき、患者をもっともうまく分別できると考えられるカットオフ値(本研究の場合は、一年後に死亡する群としない群とをきれいに分けることができると考えられる値)を予め設定する。この方法によって、一年後死亡リスクが最も高くなるIOH持続時間がどれぐらいであるかを見積もることができる。さらに、CART分析には、回帰分析よりも融通がきき、根底にある数学的関連性について考慮する必要がないという利点がある。また、従来法では検出されないおそれのある交互作用を、CART分析では見つけることができる可能性もある。

Cox比例ハザードモデルで選択された変数は全てCART分析でも用いられた。各ノードにおけるハザード比を算出するため、各ノードの条件によってコホートをグループに分け、それぞれのグループについてCox比例ハザードモデルに基づき解析を行った。

教訓 血圧閾値と持続時間の組合せによって定義された48通りのIOHについて、転帰との関係を調べました。
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