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術中低血圧と一年後死亡率~方法① [anesthesiology]

Intraoperative Hypotension and 1-Year Mortality after Noncardiac Surgery

Anesthesiology 2009年12月号より

近年、術中低血圧(intraoperative hypotension; IOH)が発生すると、非心臓手術後の転帰が悪化するにではないか、と取り沙汰されている。転帰悪化としては、具体的には、心筋梗塞、脳血管障害、肝または腎移植後の移植片機能遅延の発生、そしてさらには一年後死亡率の上昇などが挙げられている。しかし、最近の麻酔関連文献において使用されているIOHの定義の数はおよそ50種にもおよび、実際の患者データに異なる色々な定義を当てはめると、IOHの発生率には大きなばらつきが生じてしまう。言うまでもなく、このように発生率にばらつきがあれば、IOHと転帰悪化の関連を評価する際に支障を来す。IOHによる転帰悪化が認められないという結論に至った研究が複数存在するが、このことを踏まえれば驚くには値しない。近時行われたメタ分析でも、整形外科手術においては「中等度」の低血圧によって、出血量や輸血量が減り転帰が改善するという結果が示されたぐらいである。

個別具体的な患者がどれぐらい低血圧に耐えうるのかは、手術適応、年齢および基礎疾患などの要素によって左右される。患者の耐えうるレベルを下回るほどの低血圧が相当時間続けば、臓器血流は不足する。そうすれば、終末臓器の障害や、ひいては死亡という結果に陥りかねない。だが、どれぐらいの程度が、「低すぎ」たり、「長すぎ」たりするのかは正確なところは分かっていない。

我々は、IOHと一年後全死因死亡率とのあいだの相関は、IOHを定義づける閾値および持続時間の選択によって変化するという仮説を立てた。この仮説を検証するに当たり、一般外科および血管外科手術を受けた患者コホートを対象に、広く用いられているIOHの定義(異なるいろいろな閾値および最短持続時間を設定)と一年後死亡率との関連を調べた。

方法

研究設計
本研究はコホート観察研究である。過去に行われた前向き研究(the Outpatient Preoperative Evaluation by Nurses study)のコホートから患者を選択した。手短に述べると、一般外科または血管外科手術を予定されユトレヒト大学医療センター(オランダ)の術前評価外来を2002年2月から2003年2月のあいだに受診した成人患者全員を本研究の対象とした。2002年2月から2003年8月までの期間に全身麻酔、脊髄クモ膜下麻酔、硬膜外麻酔もしくは硬膜外麻酔併用全身麻酔下に予定された手術が行われた。

データ収集
術前データは術前評価外来で収集された。データの内容は、人口統計学的データ、既往歴、理学的所見およびASA PSである。術中データは、電子麻酔記録保存システムから得た。電子麻酔記録保存システムは、麻酔器およびモニターから人工呼吸器設定、血圧、心拍数および酸素飽和度の毎分のデータを自動的に取得し、麻酔中の薬剤投与内容、挿管時刻および輸液などについては手動で入力するシステムである。非観血的血圧は通常5分ごとに測定した。観血的血圧測定も行った場合は、本研究の解析には観血的血圧のみのデータを用いた。血圧データは麻酔記録保存システムから、専用のプログラム(LabView8; National Instruments Corporation, Austin, TX)を用いて取得した。このプログラムは、各患者の背景データと、麻酔記録保存システムに記録された全血圧データの取込みに使用した。基準時点の血圧は、術前評価外来で測定した血圧と麻酔導入までに手術室で測定した全血圧の平均値とした。麻酔導入開始時刻は手動で電子麻酔記録に入力することになっていたので、麻酔導入後や挿管終了後が、導入開始時刻として記録されていることが珍しくなかった。そのため、電子麻酔記録上の麻酔導入開始時刻はあまり正確ではないと考えた。そこで、麻酔導入開始時刻の定義を、過去に行われた研究で採用された方法と同様に、麻酔導入薬を投与した時刻か、呼気二酸化炭素波形が連続的に出現する3分前か、どちらか早い方とした。脊髄クモ膜下麻酔もしくは硬膜外麻酔で手術が行われた症例では、穿刺時刻を導入開始時刻とした。

教訓 どの程度の低血圧がどれぐらいの時間続くと一年後死亡率が低下するかを調べてみました。
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