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2009年を振り返って④ [anesthesiology]

2009 in Review: Advancing Medicine in Anesthesiology

Anesthesiology 2009年12月号より

Payen J-F, Bosson J-L, Chanques G, Mantz J, Labarère J: Pain assessment is associated with decreased mechanical ventilation in the intensive care unit: A post hoc analysis of the DOLOREA study. Anesthesiology 2009; 111:1308-16
12月号(本号)に掲載されたこの研究では、フランスに所在する44ヶ所のICUに入室した 1381名の人工呼吸患者を対象として行われたDOLOREA研究で得られた大規模データベースを用い、事後分析が行われた。著者らは、ICU入室後第2日に疼痛の評価が行われた患者では、行われなかった患者より頻繁に鎮静レベルの評価が行われ、より多くの非オピオイド薬鎮痛薬が投与され、痛みを伴う手技を行う際に十分な鎮痛が確保され、鎮静薬の投与量が少ないことを明らかにした。さらに、疼痛評価が行われた患者の方が、人工呼吸器間が短かった(8日 vs 11日; P<0.01)。傾向スコアによる調整を行ったところ、疼痛評価が行われなかった患者と比べ、行われた患者の方が、早く人工呼吸器を離脱し、早くICUを退室していた。この研究は観測研究なので、因果関係を確定的に示しているわけではないし、鎮痛薬と鎮静薬の相互作用は複雑である。しかし、以下に示す理由から、この研究はICUにおける疼痛とその影響についての土台として位置づけられるべきである。第一に、本研究は、麻酔、集中治療そして疼痛という我々の三つの主要テーマすべてに関するものである。第二に、ICUにおける疼痛管理についての研究は今までにほとんど報告されておらず、重症患者の転帰の一要因として疼痛評価をあつかった研究はさらに希少である。第三に、重症患者の疼痛、快適性および行動は長期転帰に影響を及ぼすため関心が高まっている。本研究は、この新しいテーマにつきまとう研究手法の難しさを明らかにした。ICU入室後第2日に疼痛評価が行われていたのは、DOLOREA研究の対象となった重症患者のわずか42%に過ぎなかったことは特筆すべき点である。あなたのICUではどうであろう?

van Dorp ELA, Kest B, Kowlaczyk WJ, Morariu AM, Waxman AR, Arout CA, Dahan A, Sarton EY: Morphine-6β-glucuronide rapidly increases pain sensitivity independently of opioid receptor activity in mice and humans. Anesthesiology 2009; 110:1356-63
モルヒネは鎮痛基本薬である。しかし、呼吸抑制、吐き気、鎮痛耐性、身体依存、精神依存および痛覚過敏などの副作用もある。効能も副作用も大半はモルヒネそのものがもたらすのだが、モルヒネの代謝産物であるモルヒネ-6-グルクロニドやモルヒネ-3-グルクロニドにも生物学的活性があることがよく知られている。

モルヒネの代謝産物の一つであるモルヒネ-6β-グルクロニドは、鎮痛効果を発揮するだけでなく疼痛感受性を増幅する作用も持ち合わせていることが最近になって明らかにされた。Dorpらはマウスとヒトを対象とした探索型臨床研究(translational research)を実施し、モルヒネ-6-グルクロニドの鎮痛作用と抗鎮痛作用について検討した。モルヒネ-6-グルクロニドを投与すると、正常マウスでは鎮痛効果が得られるが、オピオイド受容体ノックアウトマウスだと痛覚過敏が出現することが分かった。オピオイド受容体アンタゴニストによってオピオイド受容体が阻害されている場合も、モルヒネ-6-グルクロニドを投与すると痛覚過敏があらわれた。

ヒトでも、オピオイド受容体を阻害してからモルヒネ-6-グルクロニドを投与すると、疼痛感受性が上昇した(fig. 3)。モルヒネを長期間投与したり、腎疾患患者に投与したりするとモルヒネ-6-グルクロニドが体内に蓄積する。したがって、モルヒネの副作用はモルヒネ-6-グルクロニドの作用によるものなのかもしれない。モルヒネの代謝産物であるモルヒネ-6-グルクロニドには、鎮痛作用がある一方で、オピオイド受容体とは無関係に痛覚過敏をもたらし鎮痛作用を拮抗する可能性がある。

教訓 ICU患者では、疼痛評価を行う方が早く人工呼吸器を離脱することができ、早くICUを退室できます。モルヒネ-6-グルクロニドは、オピオイド受容体とは無関係に痛覚過敏をもたらす可能性があります。
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