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免疫能正常のICU患者におけるCMV感染症~考察② [critical care]

Prevalence and mortality associated with cytomegalovirus infection in nonimmunosuppressed patients in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2009年8月号より

活動性サイトメガロウイルス感染症が発生すると、そうでない場合と比べ、全死因死亡率は2倍になる。瞠目すべきことに、対象患者群が異なっても死亡率解析の結果の違いはごくわずかであり、研究デザインが異なっても点推定の結果は一貫していた。その上、免疫抑制患者でも、サイトメガロウイルス感染症を発症するとそうでない場合と比べ、本研究での結果と同程度に死亡率が高いことが分かっている。いくつもの研究で、非免疫抑制状態のICU患者における活動性サイトメガロウイルス感染症が、院内感染発生率の上昇、人工呼吸期間の延長、入院期間の延長、ICU滞在期間の延長と関連していることが報告されているが、これらは即ち、サイトメガロウイルスが死亡率の上昇と関連する可能性を示唆している。さらに、サイトメガロウイルスは、第X因子とトロンビンの生成や、vWFおよびPAI-1(プラスミノーゲン活性化抑制因子)の分泌を変化させ、凝固能亢進と炎症の増強を招く。こうした凝固能と炎症を促進させる作用によって、重症患者の生存転帰が一層脅かされるのではないかと考えられる。死亡率に関連する可能性のある要素としてはもう一つ、輸血によるサイトメガロウイルス感染または再活性化が挙げられる。白血球除去製剤を使用していた研究と、使用しなかった研究のあいだに、サイトメガロウイルス感染症発生率の差は認められないという結果を我々は得た。最近の研究では、輸血は重症患者死亡率の独立した予測因子であることが示されている。輸血による死亡率上昇には、活動性サイトメガロウイルス感染症の発生が原因として幾分か関わっているのではないかと思われる。サイトメガロウイルス感染症が、単に重症度の一指標に過ぎないのか、それともICU患者における死亡の具体的な原因なのか、という因果関係の解明は、今後の研究課題である。

本研究にはいくつかの問題点がある。研究によって対象患者に大きなばらつきが認められた。一般的にICUには様々な重症患者が入室するので、ばらつきが出ることは当初から予想はされていた。ICUの種別の違い(外科系と内科系外科系混合)および時期の違い(ICUにおける治療法の経時的変化)に関わらずサイトメガロウイルス感染症発生率がほぼ一定であったことが判明したことから、我々の得た知見には一定の価値を見出すことができるものと考えられる。また、本研究では遡及的研究も対象としたので、それが問題となった可能性もある。しかし、感度分析では、前向き研究と遡及的研究とで同等の結果が得られた。最後に、出版バイアスについては二つの方法で検討しバイアスは検出されなかったが、出版バイアスがまったくないと完全に言い切れるわけではない。

非免疫抑制状態のICU患者における活動性サイトメガロウイルス感染症の発生に強く関与していると考えられる因子は、既往感染(サイトメガロウイルスIgG抗体陽性)、ICU滞在期間延長(5日以上)、重症敗血症/敗血症性ショックそして高い重症度である。

このメタ分析で得られた知見を踏まえると、適切な検出力を備えた前向きコホート試験(活動性サイトメガロウイルス感染症の発生による死亡率の絶対増加10%を検出力80%で検出するとすれば、各群300名の患者が必要)を実施し、以下の二群のICU患者を評価することに意義があろう:サイトメガロウイルス抗体陽性で活動性サイトメガロウイルス感染症のある患者 vs サイトメガロウイルス抗体陽性で活動性サイトメガロウイルス感染症のない患者。手術実施の有無について層別化した上で無作為化を行えば、外科系患者と内科系患者を均等に振り分けることができる。試験対象選択基準としては、a) サイトメガロウイルス抗体陽性、b) APACHEⅡスコア20点以上、c) ICU滞在期間5日以上、といった条件を設定するのが適当であろう。サイトメガロウイルスPCR検査は、ICU退室まで週2回行う(ICU入室後5日目から開始)。このような試験の結果、人口統計学的背景、基準時点の背景因子および重症度が同等であるにも関わらず、活動性サイトメガロウイルス感染症によって28日後死亡率や院内死亡率が有為に高くなることが示されれば、次は介入試験の出番である。または、前向きコホート試験を行わず、即、介入試験を行ってもよい。無作為化二重盲検介入試験の利点は、抗ウイルス薬の投与によって生存転帰が改善する(または改善しない)ことを証明できることである。しかし、抗サイトメガロウイルス薬(ガンシクロビルやホスカルネットなど)の予防投与についての無作為化介入試験は、現時点では行うべきではないと我々は考えている。なぜなら、抗ウイルス薬による副作用や薬剤相互作用による有害作用が発現する可能性は言うに及ばず、大多数の患者には何ら益がもたらされないからである(サイトメガロウイルス抗体陽性患者の三分の二は、活動性サイトメガロウイルス感染症を発症しない)。ICU患者の中でどんな特性を持った患者群が、活動性サイトメガロウイルス感染症を発症するリスクがもっとも高いのかを突き止めれば、より的確な介入研究を設計することができる。

今回のメタ分析で得られた知見のなかでも注目すべきは、重症敗血症患者ではサイトメガロウイルス再活性化のリスクが非常に高いことである。したがって、この相関関係について評価する別の方法として、上記と同様の手法を採りつつ、通常2000名ほどの患者を対象とする大規模重症敗血症試験の利点を利用する手もある。こういう試験は無作為化二重盲検試験で、普通は重症度についてよく均衡がとれている。現行の疫学データが当てはまるとすれば、敗血症試験の患者のうち三分の二がサイトメガロウイルス抗体陽性である。このサイトメガロウイルス抗体陽性患者1300名のうち32%(本研究で得られた発生率)に活動性サイトメガロウイルス感染症が発症するとすれば、400名の活動性サイトメガロウイルス感染症患者と、900名の対照患者が得られることになる。これだけの標本数があれば、死亡率と活動性サイトメガロウイルス感染症との推定される相関関係を、十分すぎるぐらい十分な検出力で確かめることができるであろう。

本研究で我々が得た知見を踏まえると、サイトメガロウイルス抗体陽性、長期ICU滞在、高い重症度のいずれかにあてはまる患者を対象とした前向きコホート試験が、非免疫抑制状態患者のうち、活動性サイトメガロウイルス感染症発症リスクが最も高いのがどんな特性を持つ患者なのかを同定するとともに、活動性サイトメガロウイルス感染症が死亡率に与える影響を明らかにする絶好の機会となることが大いに示唆される。

教訓 非免疫抑制状態のICU患者における活動性サイトメガロウイルス感染症の発生に強く関与していると考えられる因子は、既往感染(サイトメガロウイルスIgG抗体陽性)、ICU滞在期間延長(5日以上)、重症敗血症/敗血症性ショックそして高い重症度です。

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