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新型インフルエンザによるICU入室~考察 [critical care]

Critical Care Services and 2009 H1N1 Influenza in Australia and New Zealand

NEJM(www.nejm.org) 2009年10月8日

考察

このコホート研究では、2009年の南半球における冬期に、オーストラリアまたはニュージーランドに所在するICUに入室した2009 H1N1インフルエンザウイルス感染確定症例全例を対象とした。722名の感染患者を特定し、冬期における人口あたりのICU入室発生率を割り出し、人口100万人あたり28.7名という結果を得た。2009年冬期におけるA型インフルエンザによるICU入室数は、近年の冬期におけるウイルス性肺臓炎によるICU入室数の15倍にのぼった。本研究では、ICUベッドの使用状況と患者の転帰についてのデータを得ることができた。2009 H1N1インフルエンザによるICUベッド使用数は、人口100万人あたり350 bed-daysと概算された。乳児(0歳~1歳)および25歳~64歳の成人が特にICU入室のリスクが高いことが分かった。妊婦、BMI>35の成人および両国の先住民族もリスクが高いことが明らかになった。本論文報告時点に入手可能なデータを基にしたICU入室例の入院中死亡率の見積値は、16%を超えていた。

先行する諸報告では、2009 H1N1インフルエンザによる重症のウイルス性肺臓炎は、通常の季節性インフルエンザで見られるよりも若い年齢層に発生することが強調され、また、妊婦は重症化のリスクが高いことが指摘されている。我々が今回得た知見も、同様であった。年齢別ICU入室発生率は、乳児と25-64歳の成人で最も高かった。ICU入室例発生率は年齢層によって異なり65歳以上では低いのだが、死亡リスクは年齢が長ずるほど大きくなることが分かった。2009 H1N1インフルエンザによるICU入室例に占める妊婦、慢性肺疾患患者、BMI>35の患者、もしくはオーストラリアおよびニュージーランドの先住民族の占める割合は、それぞれが一般人口に占める割合よりも高かった。そして、本研究の対象患者のうち三分の一は、妊娠や基礎疾患のいずれにも当てはまらない若年成人または中年成人であった。

オーストラリアおよびニュージーランドでは、人口100万人あたりのICUベッド数は75床である。先進各国におけるICUベッド数には非常に大きなばらつきがある。2009年パンデミックA型インフルエンザ(H1N1)ウイルス感染による集中治療需要の急増への各国の対応能力は、現行のICUベッド数と、需要増に対する供給拡大もしくはインフルエンザ以外による集中治療利用制限がどの程度可能かによって左右される。

今回我々が得たデータによれば、各地域におけるインフルエンザによるICU入室患者数が最も多くなるのは、当該地域におけるインフルエンザ確定例のICU入室第一例発生からおよそ4~6週間後であり、その後数週にわたりその状態が続く。現行の勧告では、2009 H1N1インフルエンザ患者には隔離が必要とされている。多くの患者を隔離して管理しなければならず、最適なケアを提供するために病院間で移送する必要もあることを踏まえると、集中治療領域の医療資源にのしかかる負担は増えるばかりであろう。

本研究における入院中死亡例の割合は、季節性のA型インフルエンザによるICU入室例の死亡率を上回るものではない。季節性のA型インフルエンザによるICU入室患者は大部分が高齢者で基礎疾患を有している。2009 H1N1インフルエンザによるICU入室例では、高齢、基礎疾患がある、気管挿管し人工呼吸がおこなわれている、といった三因子が独立して死亡と関連していた。しかし、今回の対象コホートには若年患者が多かったため、死亡例の大半は若年者であった。

我々がここに示したデータから何らかの演繹を行うには、いくつかの問題点がある。第一に、北半球のインフルエンザ対策に資するのに間に合うべく論文を仕上げるため、病院の転帰データを利用したが、この病院データにはバイアスが混入している可能性がある。第二に、我々が得たデータは、パンデミックの先駆けの時期にオーストラリアおよびニュージーランドで収集された。今後に来る大流行に際しては、時機を得た有効なワクチン導入、ウイルスの変異、抗ウイルス薬に対する耐性の発生などの諸事情により様相が異なる可能性がある。第三に、前年までの冬期におけるウイルス性肺炎によるICU入室例データは、発端コホート研究で得られたものではなく、オーストラリア-ニュージーランドデータベースから収集した。したがって、2009年冬期について本研究で得たデータと直接比較することはできない。第四に、2009 H1N1インフルエンザによるICU入室患者の確認が完全ではなかった可能性があり、登録されなかった症例が少数ながら存在していた可能性は否定できない。最後に、診断検査が偽陰性であった症例があったとすれば、2009 H1N1インフルエンザによるICU入室患者数を真の値より低く見積もったことになる。A型インフルエンザの確定診断例856名のうち、97名はインフルエンザウイルス亜型が確定されなかった。この中にも2009 H1N1インフルエンザウイルス検査が偽陰性を示した患者がいたかもしれない。以上のような問題点があるものの、オーストラリアおよびニュージーランドにおける2009 H1N1インフルエンザによる冬期のICU入室率およびICUベッド利用率が分かれば、これから2009年の冬期に突入する国々が集中治療需要増の予測を行い対策を立てるにあたり参考にすることができるだろう。

教訓 新型インフルエンザによるICU入室患者数が最も多くなるのは、当該地域における新型インフルエンザ確定例のICU入室第一例発生からおよそ4~6週間後で、その後数週にわたりその状態が続きます。
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