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重症患者の経静脈栄養~適応② [critical care]

Parenteral Nutrition in the Critically Ill Patient

NEJM 2009年9月10日号より

成人ICU患者は臨床状態が日々変化するため、往々にして必要熱量(カロリー)には相当大きなばらつきが認められる。重症患者における最適なカロリー必要量については、厳密な無作為化臨床試験が行われておらずデータが不足している。したがってどれほどのカロリーを重症患者が要するのかは不明である。安静時エネルギー消費量は、間接熱量計で測定することができる。また、標準予測式を用いれば簡単に予測値を得ることができる。中でも最も広く用いられているのはHarris-Benedict式であり、年齢、性別、体重および身長を代入して安静時エネルギー消費量を予測する(Table 3)。最新の臨床診療ガイドラインでは、大半のICU患者において妥当なエネルギー投与目標量は、安静時エネルギー消費量実測値または予測値の1.0~1.2倍にあたるエネルギー量と概ね等しいとされている。体重1kgあたり20-25kcalのエネルギー量を総投与カロリー目標量とする方法も、大半の成人ICU患者で適用可能である。

中心静脈栄養で投与する主要栄養素成分は、アミノ酸、脂質およびブドウ糖である(Table 1)。肝機能および腎機能が正常な患者では、アミノ酸の一般的な推奨投与量は、1.2-1.5g/kg/dayである。ただし、特定の状況下ではもっと多量のアミノ酸(2.0-2.5g/kg/day)を投与することを推奨しているガイドラインもある(Table 3)。脂肪乳剤の推奨最大投与量は約1.0-1.3g/kg/dayである。通常は脂肪乳剤は、単独で投与されるが、薬剤部に設置されている特別な調合器を用いれば他の成分と混合して同じ輸液バッグに充填することも可能である。

中心静脈栄養を行う場合、当初は非タンパク(アミノ酸)熱量の60-70%をブドウ糖で、30-40%を脂肪乳剤でまかなうのが妥当であるとされている(Table 3)。筆者は、中心静脈栄養開始日にはブドウ糖投与目標量のおよそ半分を投与し、その製剤がなければその後2-3日かけて目標量に達するようにしている。

最近の研究では、ICUでは比較的厳格に血糖値を管理すると、臨床的転帰が改善することが示されている。しかし、最適な血糖上限値および下限値については、まだ議論が続いている。NICE-SUGAR試験(NCT00220987)では、ICU患者における適切な血糖目標値は180mg/dLであるという結果が得られたが、外科系ICUの患者についてはまだ不明な点も残っている。中等度の高血糖が見られる場合は、ブドウ糖投与量を減らすか、またはレギュラーインスリンを投与することによって血糖値を望ましい値まで下げることができる。インスリンを栄養製剤の輸液バッグに混入するのではなく、別経路で持続静注すると投与量を柔軟に調節することができるので、ICUで著しい高血糖を治療するときはこの方法を採るべきである。

重症患者における微量元素およびビタミンの静脈内投与必要量は明らかではない。したがって通常は、標準的な静注用ビタミン・ミネラル混合製剤が使用される(Table 1)。

ICUで中心静脈栄養を行う際は、複数の項目についてのルーチーン評価によるモニタリングを行う(Supplementary AppendixのTable 1)。代謝の状態を確認するため血糖値を一日数回測定する。電解質(ナトリウム、カリウム、塩素、マグネシウム、リン)および腎機能は、一日一回評価する。血中トリグリセリド値は、基準値を測定し、以降は週一回測定する。特に、脂質異常症、膵炎、肝疾患または腎疾患のある患者では、静脈内投与した脂質の処理効率を評価するためトリグリセリド値の検査を怠らないようにする。肝機能は、少なくとも週に2-3回評価する。人工呼吸中の患者では、動脈血pHをモニタする。場合によっては、亜鉛、銅、セレン、ビタミンC、サイアミン、ビタミンB6、ビタミンB12、25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度を測定する。経静脈栄養の処方内容およびモニタリングについて、経験豊富な栄養サポートチームに意見を求めることによって、合併症やコストを減らすことができたり、中心静脈栄養法の不適切な実施を防ぐことができたりする可能性がある。

標準的な中心静脈栄養法の一日あたりのコスト見積額は、添加製剤(例;微量栄養素補給剤)の有無や内容によって異なるが、約60~90米ドルである。栄養サポートチームに関わる医療従事者によるモニタリングおよび薬剤師による調剤に関わる人件費は、一日当たり約20米ドルである。輸液路、看護、その他にもさらにコストを要する。

参照:重症患者の栄養ガイドライン

教訓 重症患者における最適なカロリー必要量については、まだよく分かっていません。少なめから控えめに始めるのがよさそうです。
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