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帝王切開:フェニレフリンvs エフェドリン~はじめに [anesthesiology]

Placental Transfer and Fetal Metabolic Effects of Phenylephrine and Ephedrine during Spinal Anesthesia for Cesarean Delivery

Anesthesiology 2009年9月号より

帝王切開では区域麻酔が選択されるのが通例である。全身麻酔では、胃内容物の誤嚥や気道確保困難などのおそれがあるが、区域麻酔ではそういったリスクを避けることができるからである。一般に、区域麻酔の方が全身麻酔よりも妊婦には安全であると考えられている。しかし、胎児に対しても同じ事が言えるかどうかは、意見が分かれるところである。特に、脊髄クモ膜下麻酔については否定的見解も多く見られる。例えば、全身麻酔よりも脊髄クモ膜下麻酔の方が、胎児に代謝性アシドーシスが発生させる危険性が高いことを示した研究が数編発表されている。また、最近の大規模遡及的研究では、帝王切開で出生した妊娠32週未満の新生児死亡率は、全身麻酔よりも脊髄クモ膜下麻酔で行った場合の方が高いという結果が報告されている。以上のような観測結果がもたらされる背景機序は不明であるが、新しいデータによれば、区域麻酔による低血圧を予防するためにエフェドリンが広く用いられていることが強く関与している可能性が窺われる。産科領域では昔から、昇圧薬としてエフェドリンが推奨されてきた。だが、エフェドリンには胎児のpHおよびbase excessを低下させる傾向があり、特にフェニレフリンやメタラミノールなどの他の昇圧薬と比較した場合にその傾向が顕著であるという報告が相次いでいるのが現況である。

エフェドリンが胎児のアシドーシスを引き起こす理由はよく分かっていない。エフェドリンが推奨されてきたもともとの理由は、α刺激薬と比較し子宮胎盤循環を担う血管をあまり収縮させないことが動物およびin vitro実験で示されているためである。昇圧薬が胎児に与える直接作用の可能性については、ほとんど顧慮されてこなかった。しかし最近では、エフェドリンによって酸塩基平衡の変化が引き起こされるのは、エフェドリンが胎盤を通過し胎児のβ受容体を刺激し、胎児の代謝が亢進するためではないかという意見が提示されている。とは言え、各種昇圧薬の胎盤通過性の比較についてのデータはほとんど存在せず、前述の仮説を裏付ける情報もないと言ってよい。そこで我々は、無作為化二重盲検試験を計画し、予定帝王切開術における脊髄クモ膜下麻酔中の血圧維持にエフェドリンもしくはフェニレフリンを使用し、各々の胎盤通過性と母体および新生児の代謝を反映する数々のマーカを比較した。

教訓 産科麻酔では昇圧薬としてエフェドリンが推奨されてきましたが、エフェドリンには胎児のpHおよびbase excessを低下させる傾向があることが分かってきました。特にフェニレフリンやメタラミノールなどの他の昇圧薬と比較した場合にその傾向が顕著であるという報告が相次いでいます。


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