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成人先天性心疾患患者の麻酔~麻酔管理の問題点② [anesthesiology]

Anesthesia for Noncardiac Surgery in Adults with Congenital Heart Disease

Anesthesiology 2009年8月号より

出血のリスクと血栓症のリスク
Eisenmenger症候群の患者は、大半が高度のチアノーゼ(酸素飽和度<85%)を呈する。チアノーゼがあると、たとえ小手術であっても周術期出血および血栓症のリスクが高い。両者ともその原因は、血小板の数および機能の異常と、凝固系の複合的な異常である。血小板数が減少するのは、末梢で消費されることにより血小板の寿命が短縮するためであると考えられる。凝固系の異常についてはあまりよく分かっていない。高度のチアノーゼを呈する患者では、循環血液中のビタミンK依存性凝固因子、第Ⅴ因子およびフォン・ヴィルブラント因子が少ない。そのためPTおよびAPTTが延長する。だが出血時間は延長しない。その原因はおそらく、血液の粘稠度が上昇し、流速が低下するためである。出血のリスクを上昇させるその他の要因は、細動脈の拡張や、組織の血管新生が盛んなことである。このような血管の変化が生ずるのは、血液粘稠度の上昇により血管壁に作用する剪断応力が大きくなり、内皮由来の一酸化窒素やプロスタグランディンの放出が増えるためであると考えられる。

チアノーゼのある患者では出血リスクが高いが、だからといって血栓症になりがたいわけではない。チアノーゼがあると、二次性赤血球増多症が起こる。慢性的な低酸素症に対する代償反応が二次性赤血球増多症である。エリスロポエチンの産生量増加によって赤血球が増える。すると、血液中で赤血球の占める容積が増え血漿量が減り、血液全体の粘稠度が上昇する。その結果、細動脈や毛細血管における血液流量が減る。鉄欠乏や脱水があると状況はさらに悪化する。鉄欠乏下で産生される赤血球は変形しにくい。鉄欠乏は、Eisenmenger症候群における血栓症発生の強力な独立予測因子であることが明らかにされている。

周術期は、術前の絶飲食のため、血液粘稠度上昇による症状が増悪し、脳血栓症のリスクが増大する可能性がある。したがって、輸液を適切に行う必要がある。血管内容量を保ちながら瀉血を行う治療法は今では廃れているものの、ヘマトクリットが65%を超える場合には術前に瀉血を行うと手術時の止血能が改善する。

術前に凝固系の評価を綿密に行うことは不可欠である。中~大手術を受ける患者では、検査に異常が認められれば凝固因子や血小板の補充を考慮する必要がある。また、急ぐ手術でなければ、鉄欠乏があれば術前に補正すべきである。しかし、二次性赤血球増多症でヘモグロビンが増え血漿量が減っている場合には、標準的な検査法によるPT-INRやAPTTの測定値が正しくない可能性があることを念頭に置かなければならない。ヘモグロビンが増え血漿量が減っていると、採血管内のクエン酸濃度を調整する必要がある。ほとんどの施設では、採血管内の抗凝固剤の量は次の公式で調整すればよい:採血管内の抗凝固剤(3.8%クエン酸)の量(mL)={(100-ヘマトクリット)/100}+ 全血10mLあたり0.02

教訓 チアノーゼがあると、出血のリスクも血栓症のリスクも上昇します。
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