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成人先天性心疾患患者の麻酔~麻酔管理の問題点① [anesthesiology]

Anesthesia for Noncardiac Surgery in Adults with Congenital Heart Disease

Anesthesiology 2009年8月号より

先天性心疾患の長期合併症と麻酔管理における問題点

先天性心疾患のある成人患者の生存期間は昔より長くなっている。そして、単純な欠陥であっても長期合併症を招くことが明らかになってきた。循環器系の長期合併症としては以下のものが挙げられる:肺高血圧症、心室機能低下、不整脈および伝導障害、遺残シャント、弁疾患(逆流および狭窄)、高血圧および瘤。循環器系以外の合併症には、二次性赤血球増多症、胆石、腎結石、発達障害、中枢神経障害(血栓塞栓症または脳血管障害によるてんかんなど)、聴覚障害、視覚障害、拘束性または閉塞性肺障害などがある。先天性心疾患のある成人が非心臓手術を受ける場合、先天性心疾患にまったく手が加えられておらず欠陥がそのままになっていることもあれば、姑息的手術後であることもあれば(例;部分または完全右心バイパス術)、根治術後であることもある。先天性心疾患が軽症で、特に積極的な管理を必要としない患者がいる一方で、複雑な病態を呈していて、先天性心疾患の管理に長けた循環器専門医および麻酔科専門医による管理を要する患者もいる。成人の先天性心疾患はほぼ全例、他の複数臓器の異常を伴う全身疾患として扱わなければならない。

肺高血圧症
先天性心疾患のある成人では、肺高血圧症が発症することがある。その原因は多彩である。心室拡張終期圧の上昇や肺静脈狭窄により、続発的に肺静脈圧が高くなることが肺高血圧症の原因として考えられる。肺高血圧症がある患者の多くにおいては、遺残シャント、肺機能低下および慢性的な肺血流量低下のため酸素飽和度が常に低い。しかし、成人先天性心疾患患者における肺高血圧症の主な原因は、大きいnonrestrictiveな欠損が長期にわたって存在してきたことである。大きい欠損があると、肺血管床の血流量が増え、体循環に近い圧が加わるため、血管に不可逆性の変化が生じ、肺血管抵抗が上昇する。こうした変化は小児期から現れ始め、進行する。肺血管抵抗が上昇しても、当初は可逆性であるのだが、時間が経つにつれ永続的な変化になってしまう。血管に生ずる変化には、細動脈や細筋性動脈の中膜肥厚、内膜の細胞増殖、内皮細胞下への平滑筋細胞の遊走、進行性の線維化、細動脈および小動脈の閉塞などがある。左右シャントが長期間継続することにより肺高血圧症に至った病態を、Eisenmenger症候群と言う。

Eisenmenger症候群患者の管理は、麻酔科医の腕の見せ所である。Eisenmenger症候群患者の周術期死亡率は高いため、絶対に必要でなければ非心臓手術を行ってはならない。死亡の予測因子は、失神、発症年齢、心機能低下、上室性不整脈、右房圧上昇、酸素飽和度低下(<85%)、腎機能障害、右室機能の重度低下および21トリソミー(ダウン症候群)である。

肺高血圧症のある患者の麻酔管理における基本方針は、肺血管抵抗の上昇を防ぎ、かつ体血管抵抗を保つことである(fig. 1)。肺血管抵抗が急に上昇すると、心内シャントのない患者では、急性右心不全により心拍出量が低下し、心内シャントのある患者では酸素飽和度が低下し、その後に心拍出量が低下する。どちらの場合でも、重度の徐脈が発生し、その果てに心停止に至ることがある。肺高血圧クライシスの予防と治療の方法は、100%酸素による過換気、アシドーシスの補正、交感神経刺激の回避、正常体温の維持、胸腔内圧をなるべく低くする、強心薬の使用である。肺血管抵抗の急激な上昇には一酸化窒素の吸入が有効であり、リスクの高い患者の麻酔管理にあたっては手術室内で一酸化窒素を使用できるよう手配すべきであろう。体表面の手術であれば、全身麻酔に代わる選択肢として区域麻酔も可能である。しかし、脊髄クモ膜下麻酔または硬膜外麻酔を行うと、心内シャント量が多い患者では体血管抵抗が過度に低下するおそれがあり、そうすると右左シャントが余計増えてしまうことになる。一方、全身麻酔では換気を適切に調節することができるため、高リスク手術を受ける患者の場合には、全身麻酔が好ましいと考えられる。

Fig. 1 体循環と肺循環の血流分布に影響を及ぼす諸要因

肺血流量を増やす要因
肺血管抵抗低下 低二酸化炭素血症、肺血管拡張(NO)
体血管抵抗上昇 交感神経緊張、血管収縮薬、低体温

体血流量を増やす要因
肺血管抵抗上昇 低酸素血症、高二酸化炭素血症、高ヘマトクリット、陽圧換気、寒冷、代謝性アシドーシス、α刺激薬
体血管抵抗低下 血管拡張薬、硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔、深い全身麻酔、高体温

教訓 Eisenmenger症候群患者の周術期死亡率は高いので、絶対に必要でなければ非心臓手術を行ってはなりません。死亡の予測因子は、失神、発症年齢、心機能低下、上室性不整脈、右房圧上昇、酸素飽和度低下(<85%)、腎機能障害、右室機能の重度低下および21トリソミー(ダウン症候群)です。


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