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成人先天性心疾患患者の麻酔~疫学 [anesthesiology]

Anesthesia for Noncardiac Surgery in Adults with Congenital Heart Disease

Anesthesiology 2009年8月号より

先天性心疾患は先天異常の中で最も多く、出生児1000名あたり約8名に認められる。大動脈二尖弁を除くと、先天性心疾患の大部分は、未治療であると乳幼児期に死亡し、成人に達するまで生存できるのはわずか15-25%にすぎない。出生前診断、インターベンション治療、小児心臓手術、麻酔および集中治療が進歩し、現在では先天性心疾患患者のおよそ90%が生存し成人を迎えることができる。今や米国では史上初めて、先天性心疾患の患者数は成人が小児を上回っているものと推計されている。先天性心疾患を持つ成人の多くは、追加の姑息的心臓手術、根治的心臓手術もしくは非心臓手術を受けることになる。成人先天性心疾患患者の解剖と生理は、特異的かつ複雑な様相を呈する。根治術または姑息的手術後の先天性心疾患を有する成人の周術期合併症および死亡率は、先天性心疾患のない成人患者と比べ高い。しかし、この点についてのしっかりした研究が行われたことはない。成人先天性心疾患患者の管理法を指し示すガイドラインは、皆無に等しい。それにもかかわらず、ACCの特別委員会は、中等度から重度の先天性心疾患のある成人患者が非心臓手術を受ける場合は、成人先天性心疾患センターに照会し循環器専門医および麻酔科専門医に適切な助言を求めること、と推奨している。

本論文の目的は、非心臓手術を受ける成人先天性心疾患患者の管理を担当する麻酔科医に対し、先天性心疾患による長期的変化や、術前および術中管理の注意点についての全体像を示すことである。

先天性心疾患の疫学

成人先天性心疾患患者のうち約25%では、当該先天性心疾患は軽症であり、外科的またはカテーテルインターベンションを受けずに成人期まで生存できた症例である。このような患者においてよく見られる疾患は、軽度大動脈弁狭窄(通常、大動脈二尖弁による)、小さいVSD、ASD、軽度肺動脈弁狭窄、僧帽弁逸脱、他の異常を伴わない修正大血管転移などである(table 1)。しかし、外来を受診する成人先天性心疾患患者の大多数は、手術またはカテーテル治療後の症例である(table 1)。

先天性心疾患による障害を機能的に分類すると、左右シャント(非チアノーゼ性)を生ずる疾患と、チアノーゼを来す(右左シャント)疾患に分けられる。酸素化された血液が左房、左室または大動脈から右房、右室または肺動脈へ流れ込むのが左右シャントである。したがって、全身から戻ってきた静脈血すべて(有効肺血流量;脱酸素化された血液のうち肺へ運ばれて酸素化される血液の量)と、完全に酸素化されたシャント血が肺へ運ばれる。その結果、心房、心室、もしくはその他の部分のいずれか一つ以上に容量負荷が生ずる。欠陥が大きいと肺血流量が増え、肺血管床に体循環に近い圧がかかるようになる。この状態が続くと、肺血管床に不可逆性の変化が起こり、肺血管抵抗が上昇し、肺高血圧症に陥る。肺動脈圧が大動脈圧に近づくと、欠陥部位において逆向きのシャント(右左シャント)もしくは両方向性シャントが生ずる(Eisenmenger症候群)。

心房中隔欠損および心室中隔欠損は、先天性異常の中でも頻度が最も高い部類の疾患であり、成人先天性心疾患の25%を占める。外来でよく遭遇する成人非チアノーゼ性先天性心疾患には他に、大動脈縮窄症、先天性動脈弁疾患により狭窄and/or逆流を来したもの、大動脈弁下狭窄、先天性僧帽弁疾患により狭窄and/or逆流を来したもの、修正大血管転位、Ebstein奇形(通常、乳児期にチアノーゼを呈する)などが挙げられる。

チアノーゼ性心疾患では、心臓の解剖的欠陥のせいで肺血流量が低下したり、酸素化した血液に脱酸素化した血液が混ざったりする。そのため、動脈血酸素含有量が減りチアノーゼを来す。非チアノーゼ性先天性心疾患と異なり、チアノーゼ性先天性心疾患の患者の大半は、成人に達するまでに少なくとも一度、多くは複数回にわたる手術やカテーテル治療を受けている。外来でよく遭遇する成人チアノーゼ性先天性心疾患は、ファロー四徴症、完全大血管転位、いろいろなタイプの単心室である。その他、総肺静脈灌流異常、総動脈管症、両大血管右室起始症なども見られる。

教訓 医学の進歩により、先天性心疾患の患者数は成人が小児を上回っています。
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