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喘息最前線2008~治療薬のリスク② [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

ロイコトリエン修飾薬

2008年3月、モンテルカストが、行動や気分の変化、自殺指向性(自殺念慮や自殺企図)、あるいは自殺と関連している可能性があるという報告を受け、FDAで安全性に関する検討会が行われているが、その中途報告が公表された。この検討会では、モンテルカストとともに、ザフィルルカストやジロートンをはじめとした他のすべてのロイコトリエン修飾薬も対象にされている。2009年1月、偽薬を対照群として設定したおよそ100編の臨床試験(モンテルカスト41編、ザフィルルカスト45編、ジロートン11編)についての検討結果が追加報告された。検討の俎上に載せられた臨床試験の対象患者総数は19000名を超え(その中でもっとも年少の患者は5歳であった)、この患者たちはいずれもモンテルカストなど3剤のうち1剤を投与されていた。自殺念慮の発生頻度は0.01%以下(モンテルカストを投与された成人患者1名のみ。ザフィルルカストおよびジロートンに関してはゼロ)であった。しかし、対象となった臨床試験は、神経精神領域の有害事象を検討するように特異的に設計されていたわけではない。したがって、モンテルカスト、ザフィルルカスト、ジロートンによる気分/行動関連有害事象について、FDAは未だ決定的な結論には達していない。神経性新領域の有害事象としてFDAへ届けられた上市後の報告は、大半がモンテルカストに関連するものである。現時点においてFDAは、ロイコトリエン修飾薬を使用する際は神経精神領域の有害事象の可能性を念頭に置き観察を怠らないこと、と勧告している。

抗コリン薬

2008年10月、FDAはCOPDに対するチオトロピウムの安全性に関する検討の速報を公表した。企業の資金援助を受けて行われた偽薬対照試験(29編)の統合解析が行われ、チオトロピウム使用群において脳血管障害のリスクが上昇する(0.002%)という結果が得られたため、安全性の検討がFDAで行われたのである。この速報が公のものとなった後に、UPLIFT (Understanding the Potential Long-Term Impacts on Function with Tiotropium)試験をはじめとするチオトロピウムの安全性に関する論文が数編発表された。UPLIFT試験は、COPD患者を対象とした大規模(n=6000)、前向き(4年)偽薬対象臨床試験で、チオトロピウムによる脳血管障害のリスク増大は認められなかった。翻って、最近発表された2編の論文では、吸入抗コリン剤を投与すると、心血管系有害事象のリスクが増大するとされている。この2編はいずれも対象患者数は多いが、研究設計に起因する交絡因子の影響が認められる。一編は、メタ分析を交えた体系的総説であり、短時間作用性抗コリン薬と長時間作用性抗コリン薬の区別がされていない。もう一編は、吸入薬を投与されているCOPD患者についての症例対照研究であり、数種類の吸入薬が使用されていて、その中の1つが抗コリン薬であったに過ぎない。FDA は2009年中にUPLIFT試験で得られたデータのさらに詳しい検討が行われ、FDAは2009年中に新しい報告を公表する模様である。今のところ、FDAは抗コリン薬を喘息治療薬として認可していないが、現実的には、短時間および長時間作用性β作働薬に変わる気管支拡張薬として抗コリン薬には強い関心が持たれている。複数の臨床試験で、イプラトロピウムは即効性の喘息発作治療薬として用いられている。また、2007年のNAEPガイドラインでは、救急外来における重症喘息増悪時の治療にあたっては、短時間作用性β作働薬に加え抗コリン薬を併用すると有効であると記されている。チオトロピウムについては、喘息に対する長時間作用性気管支拡張薬としての有効性が複数の臨床試験で検証されている。その一つが、NHLBI Asthma Clinical Research Network (ACRN)によるものであり、現在進行中である。喘息とCOPDは同一の疾患ではない。したがって、COPDにおける安全性の問題が、必ずしもそのまま喘息に当てはまるわけではないし、逆もまた然りである。製薬会社が抗コリン薬を喘息治療薬として売り出そうとする際には、この点に注意を払わなければならない。

教訓 ロイコトリエン修飾薬は自殺を招く可能性があるかもしれません。抗コリン薬の喘息における有効性や安全性はまだはっきりしていません。
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