AKIによる腎外遠隔臓器障害~心
現トランスジェニックマウスでは、左室拡張および左室肥大が起こり、そのため死期が早まることが分かっている。また、両側胸水、心筋細胞アポトーシスおよび心筋炎も起こる。IL-6およびIL-6受容体のいずれもが過剰発現するトランスジェニックマウスでも、心室肥大が見られる。
AKI発症後に起こる心機能低下にサイトカインが関与していることは、動物モデル実験で明らかにされている。ラットを用いた腎虚血再灌流モデルの実験では、心臓にTNF-α、IL-1およびICAMメッセンジャーRNAが増え、MPO活性が上昇することが分かっている。腎虚血再灌流から48時間以内に心臓超音波検査を行うと、左室拡張末期径および左室収縮末期径の増大と左室内径短縮率の低下が認められる。腎虚血再灌流モデルでは心筋アポトーシスが見られるが、両側腎摘除モデルでは見られない。抗TNF-α抗体を投与すると心筋細胞のアポトーシスが有意に抑制されるため、AKI後の心機能低下にはTNF-αが直接的に関与しているものと考えられている。最新の研究では、ヘムオキシゲナーゼ-1に細胞保護作用があることが明らかにされている。ヘムオキシゲナーゼ-1はヘムの分解に関わる酵素であり、酸化ストレスや低酸素によって誘導される。ヘムオキシゲナーゼ-1ノックアウトマウスに腎虚血再灌流を引き起こすと、非ノックアウトマウスと比べ糸球体濾過率が大幅に低下し、IL-6 mRNAの誘導が促進され、死亡率が上昇する。
虚血再灌流による軽度腎傷害は中等度以上の腎傷害と異なり、心筋虚血を防ぐ作用をもたらす。特定の冠動脈を閉塞させると、その冠動脈の灌流域だけに止まらない心筋保護作用がもたらされることが明らかにされたことをきっかけに、虚血プレコンディショニングが虚血部位とは離れた場所に及ぼす影響についての研究が行われるようになった。Ghoらは低体温下(30℃)で15分の腎虚血に曝露したマウスを用いた実験を行い、冠動脈閉塞後の心筋虚血域が対照マウスより縮小することを他に先駆けて示した。心筋保護作用が生ずる機序についてはいろいろな意見がある。神経節遮断作用のあるヘキサメトニウムが、遠隔部位虚血プレコンディショニング作用を打ち消すことから、プレコンディショニング作用の発現に神経を介する機序が関与