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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~鎮痛① [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

ICUに収容され人工呼吸を行われている患者の管理において、多くの場合、鎮静と鎮痛は重要な位置を占めている。最適な方法で薬剤を投与するには、エビデンスを基に作成されたガイドラインにおいて示されている推奨事項の基盤となった重要な諸文献の内容を理解する必要がある。また、診療ガイドラインは近い将来に改訂される予定であるが、現行のガイドライン作成後に積み重ねられてきた学術上の成果についても知る必要がある。余すところのないこういった知識の蓄えは、短期および長期転帰をできる限り損なわずに患者の安寧を実現するような、抜かりのない管理計画を立案するのに不可欠である。

鎮痛

ICUにおける鎮静をテーマとして取り上げる場合、人工呼吸患者の管理の一環としていわゆる「鎮静」を行う際には適切な疼痛管理が達成されている必要があることを第一に認識すべきであることを忘れてはならない。重症患者では疼痛が生ずることが珍しくない。気管挿管や人工呼吸そのものによって疼痛が生ずることもあれば、体位変換やチューブや輸液路の固定などの日常的なケアなどが疼痛の原因となることもある。こうして発生した疼痛が一定以上の強さになれば、ストレス反応が起こる。したがって、患者が快適に過ごせるようにするには疼痛に適切に対処しなければならない。そうすれば、疼痛に伴う有害事象をも防ぐことができるかもしれないのである。疼痛管理が適切に行われていれば、鎮静薬はほとんどもしくは全く必要ない可能性がある。この点は、以下で詳しく検討するデンマーク発の研究でも指摘されていることである。患者の疼痛に留意することの重要性は揺らぎようがないが、必ずしもすべての人工呼吸患者に疼痛が生ずるわけではないことを念頭に置くことも同等に重要である。例を挙げると、死亡リスクの高いICU患者171名を対象にしたPuntilloらの研究では、ICU入室後最長2週間後までの期間に行われた聞き取り調査で、疼痛があると答えた患者は40%にとどまった。疼痛の有無についてはあらゆる患者において配慮しなければならないが、全患者に鎮痛薬を投与するというような方策は必要ないということが確認されたという点で、この研究は重要な意味を持つ。ICUに収容されている人工呼吸患者の疼痛管理を最適な形で行うには、患者と直接的に意思の疎通を図らなければならない。

患者の意思を直にくみ取る必要性があることは当然ではあるが、人工呼吸中の患者から疼痛症状についての訴えを得るのは困難なことがある。いくつかの指標が疼痛の客観的評価に用いられている。数値評価スケールは、話したり指し示したりすることさえできれば患者がぼーっとしていても利用できるため、重症患者における有用性が検証されているものの一つである。これは0点から10点のスケールで、0点のところには「痛みがない」、10点のところには「想像し得る限り最悪の痛み」と記されている。しかしこのスケールを用いて正確に評価するには、数字と0点および10点の部分の注意書きがはっきりと読み取れるスケールを必ず使用し、患者が評価者の質問を理解し適切な時間内に応答できるかどうかを常に的確に判断できなければならない。行動疼痛スケール(behavioral pain scale)や重症患者疼痛観察法(Critical Care Pain Observation Tool)は、いずれも疼痛に対する行動上の反応を観察して評価する方法である。重症患者の疼痛評価における評価者間のばらつきや一致度について、この二つの行動面からの評価法と患者の自己申告に基づいて評価する数値評価スケールとの比較研究が行われている。行動疼痛スケールは、自己申告による数値評価スケールと比べ、強い疼痛ほど過小評価してしまう傾向があることが明らかにされている。非言語的疼痛スケール(Nonverbal Pain Scale)は意思の疎通を図れない患者にでも利用できる評価法で、行動と生理学的指標を組み合わせて点数化する(Table 1)。この方法は広く用いられているが、評価者間のばらつきがないことを観測研究で検討して開発された方法である。非言語疼痛スケール改訂版についての追跡調査では、侵害刺激を与える前、最中または後であるのかを評価者が知っていたにも関わらず、侵害刺激の大きさとこのスケールで算出される点数とが相関しないことが明らかにされている。以上の疼痛評価法にはいずれも問題点があるが、鎮痛薬投与を判断する際の参考にはなり得る。

教訓 疼痛管理が適切に行われていれば、鎮静薬の必要量はゼロもしくはごく少量で済む場合があります。人工呼吸中の患者の全てに疼痛があるわけではありません。行動疼痛スケールは、自己申告による数値評価スケールと比べ、強い疼痛ほど過小評価してしまう傾向があります。
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