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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑧ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

集中治療専門医は、自施設のアンチバイオグラム(各種注射用抗菌薬に対する臨床分離株の薬剤感受性パターン)を把握し、予測的に使用する抗菌薬を適切に選択できるように努めなければならない。各施設の実状に合わせたプロトコルを作成すれば、抗菌薬を選択するのに当たって上述のような注意点を確実に押さえることができる。別の方法として、グラム陰性菌に感受性のある抗菌薬を含む予測的多剤併用療法を起因菌が分離され薬剤感受性が判明するまで実施するというものがある。この方法は上述のプロトコルと組み合わせることもできる。この方法によって適切な抗菌薬が選択される可能性が高くなることが示されているが、選択すべき抗菌薬は施設ごとの感受性によって異なると考えられる。起因微生物が分離され感受性が判明したら、当初の広域スペクトラム療法からより狭域スペクトラムの抗菌薬へと変更する。この縮小(deescalation)策をとることによって、抗菌薬の予測的選択を最善なものとすることができる上に、抗菌薬耐性、薬剤毒性、ICUにおいてよく見られる病原体であるクロストリジウム・ディフィシルの増殖などの原因となる薬剤の使用を最小限に抑えることができる。

抗菌薬療法において留意すべきもう一つの重要な点は、適切な量を投与することである。我々の施設で行った研究では、フルコナゾールの投与量不足が、カンジダ血流感染治療中の死亡の独立予測因子であることが明らかにされている。適切な投与量が重要であることについては、正しい認識が近年広まってきている。というのも、新しい抗菌薬の開発が進んでいなかったり、使用している抗菌薬に対する感受性が「感受性有り」の範囲であっても最小発育阻止濃度(MIC)が高い細菌に患者が感染している場合は転帰が悪いという観測結果が知られるようになってきたりしているからである。例えば、最新のClinical and Laboratory Standards Instituteの感受性限界点を適用すると、バンコマイシンのMICが2mcg/mL以下のMRSA分離株はバンコマイシンに感受性があることになるが、MRSA感染に対してバンコマイシンを投与されている症例では、分離されたMRSAのバンコマイシンのMICが1mcg/mL以下の場合よりも2mcg/mLの場合の方が死亡率が高いことがいくつかの研究で明らかにされている。同様に、MICの高いグラム陰性菌に感染している患者は死亡率が高いことが分かっている。以上の知見から、こういった細菌による感染の治療には確実に感受性がある他の抗菌薬(例;MRSA肺炎にリネゾリド)を使用すべきなのかもしれない。

他にも、抗菌薬の投与法を見直し、細菌を撃滅するのに必須であるPK/PD(薬物動態/薬力学)を最適化し、耐性菌の増加という難問を解決しようとする取り組みが行われている。中でも最も熱心に研究が行われている投与法は、βラクタム薬の持続投与と間欠的に長時間(3-4時間)かけて投与する方法である。この投与法が有効であると考えられているのは、当該細菌のMICを上回る薬物濃度が維持される時間を最長化すればβラクタム薬のPK/PDに適うからである。重症患者の薬物動態データを基にしてモンテカルロシミュレーションを行った初めての試みでは、ピペラシリン/タゾバクタム、セフェピムおよびメロペネムの長時間もしくは持続投与によってPK/PDの目標達成度が向上することが明らかにされた。標本数は少ないものの、臨床データでもこのような投与法によって患者の転帰が改善することが示されている。ただし、一方では転帰の改善を否定するデータも報告されている。PK/PDの最適化がもっとも役立つ臨床状況は、腎機能が正常でMICが高いと予測される病原体にやられている可能性が高い患者(例えば、近い過去に抗菌薬を投与されていたり、入院期間がすでに長期に及んでいたりする患者)を治療する場合である。このような患者群を対象とした研究が今後行われることが期待される。

教訓 重症感染症を治療する際には、自施設のアンチバイオグラムの把握、deescalation(はじめは広域スペクトラムの抗菌薬を予測的に投与し感受性が判明したら狭域スペクトラムの抗菌薬に変更)、投与量不足の回避、PK/PDに適った適切な投与計画が大切です。
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