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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑥ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

免疫療法とバイオマーカ

免疫能を変化させる治療法(宿主免疫反応の強度を増幅または低下させる薬剤の使用)を有効に行うには、患者の炎症反応が亢進しているのか低下しているのかを見極めるよい方法がないことが、大きな障壁として立ちはだかる。免疫系の状態を反映する特定のマーカ(バイオマーカ)の血中濃度を定量できれば、大きな福音となるかもしれない。バイオマーカの定量評価によって治療方針を決定するこの方法を検討した研究が、つい先頃行われた。この研究では、フローサイトメトリを行い循環血液中の単核球におけるHLA-DRの発現が低下していることが分かった患者には、免疫能を活性化する作用のある顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を投与し、免疫エフェクタ細胞の増幅を促進・誘導した。小規模な第Ⅱ相試験ではあったが、HLA-DRの発現が低下している敗血症患者にGM-CSFを投与すると、人工呼吸期間、ICU在室期間および入院期間が短縮するという結果が得られた。HLA-DRの他にも、T細胞疲弊のマーカ(プログラム細胞死-1[PD-1]やPD-リガンド1)や制御性T細胞(T細胞活性化を強力に阻害する作用がある)のマーカなどが、免疫エフェクタ細胞の免疫表現型を明らかにするバイオマーカとなりうる。表現型を反映するマーカと、希釈全血を用いて炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの産生能を評価する免疫機能検査を組み合わせれば、患者の免疫能がどのような状態にあるのかを正確に判断することができるのではないかと期待されている。小児敗血症患者を対象として最近行われた臨床研究では、リポ多糖(LPS)で刺激した血液検体を用いてTNF-α産生量を測定し、TNF-α産生量が200pg/mL未満の患者にはGM-CSFが投与された。GM-CSFを投与された患者の血液のTNF-α産生能は改善し、GM-CSFを投与されなかった場合と比べ、新規院内感染発生数が大幅に減った。

宿主免疫能を反映する指標として臨床応用できる可能性があるマーカは、単球のHLA-DR発現の他にもある。例えば、CD4陽性およびCD8陽性T細胞の細胞表面発現マーカである。T細胞は様々なタンパクを発現する。このタンパクにはT細胞活性を増幅または抑制するいずれかの作用があり、かつ、フローサイトメトリを行えばタンパクの発現の程度を迅速に評価することができる。我々の研究室では、以上で紹介した免疫修飾タンパクのT細胞における発現量を定量評価し、重症度の指標(SOFAスコア)との相関を検討した(fig. 3)。この図に示した結果は先行発表のものではあるが、CD8陽性T細胞を活性化する共刺激分子(CD28およびOX40)の発現が減ると、重症度が高くなる(SOFAスコアが高くなる)という逆相関の関係があることが明らかになった。我々はまた、T細胞を不活化する共刺激分子の発言についても研究を進めている。細胞表面におけるタンパク発現についての以上のような研究結果と、プロカルシトニンのような他の敗血症マーカについての研究で得られた知見を組み合わせれば、宿主の免疫能をより総合的に捉えることができるであろう。プロカルシトニンは敗血症のマーカとしては感度と特異度に問題があるとはいえ、高値が続く場合は転帰不良であることを示す。色々なマーカのどれとして、必ずしもその一つだけで患者の免疫能の全体像を明らかにできるわけではないが、複数の検査を適切に組み合わせれば免疫能をより正確に評価することができるようになるだろう。そうすれば、各症例にぴったりあつらえた目標指向型の治療が可能となると考えられる。

教訓 宿主免疫能を反映する指標として臨床応用できる可能性があるマーカには、単球のHLA-DR発現やCD4陽性およびCD8陽性T細胞の細胞表面発現マーカなどがあります。複数の検査を組み合わせることによって患者の免疫能を正確に評価できるのではないかと期待されています。
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