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術後ハイリスク患者に対する制限輸血と非制限輸血の比較~考察 [critical care]

Liberal or Restrictive Transfusion in High-Risk Patients after Hip Surgery

NEJM 2011年12月29日号より

考察

大腿骨骨折に対する手術を受けた患者2016名を対象に無作為化臨床試験を実施し、ヘモグロビン濃度を10g/dL以上に維持するという基準で輸血を行っても、貧血症状があるかまたはヘモグロビン濃度が8g/dL未満の場合に輸血する場合と比べ、主要転帰(死亡または介添人による介助なしでの部屋の端から端までの歩行不能のいずれかの複合転帰)の改善は得られず、臨床的にインパクトのある一部の二次転帰項目(心血管系合併症発生率および身体機能の指標)についても同様に改善は見られなかった。本研究に登録されたのは平均年齢が81歳を超えるハイリスク患者であり、より健康だったり若かったりする手術患者と比べると、貧血の放置が有害事象の発生につながるおそれがあると思われる。

60日後に部屋の端から端まで歩行できるかどうかを主要転帰項目の一つとしたのは、大腿骨骨折後の機能転帰として歩行能力が重要であることと、輸血が歩行能力の優劣に影響をおよぼすのではないかと考えたためである(例えば、有酸素運動脳や筋力)。そこで我々は、ヘモグロビン濃度が高い方がリハビリにより積極的に取り組むことができ、歩行能力の回復も順調であるという仮説を立てた。

非制限輸血群と制限輸血群のあいだで、濃厚赤血球製剤の使用量については統計学的な差ばかりでなく臨床的にも明らかに差があり、ヘモグロビン濃度に関しても十分な開きがあった(Fig. 1)。制限輸血群の患者に投与された輸血単位数は、非制限群より65%少なかった。制限輸血群では輸血が行われなかった患者が全体の半数以上を占めた。制限輸血群および非制限輸血群ともに同じような状態の患者が登録されたが、制限輸血群では割り当てられた輸血法が徹底されたためこのように輸血製剤使用量が大幅に少なかったものと考えられる。

非制限輸血群では輸血法と性別の交互作用が明らかになり、女性よりも男性の方が60日後において死亡または介助なし歩行不能のいずれかに該当する患者の割合が高かった。これは予期せぬことであり、偶発的なものであった可能性がある。

本研究では、主要転帰に関する情報を対象患者の99%について収集することができ、生死の別について評価を行うことができた。しかし、我々が30日後および60日後の機能評価を行ったわけではなく、電話による聞き取り調査によって機能転帰を確認したため、話の行き違いがあったり、聞き取り調査に応じた患者の代理人がこの研究についてよく分かっていなかったり、記録間違いがあったりしたおそれがある。患者の歩行能力を我々が直接評価したわけではないものの、患者とその代理人の双方に歩行能力に関する聞き取りが行われた症例について検討したところ、両者は非常に良く一致することが分かった。対象患者の45~60%において日常生活の身体活動度、手段的活動度および疲労度が評価できず、こうした例については解析を行うことができなかった。本研究では患者登録が始まってから、患者登録基準を見直し、よりリスクの低い患者(心血管系疾患のリスクはあるが既往はない患者)も対象とすることにした。心血管系疾患の有無と割り当て群とのあいだに交互作用は認められなかった。

本研究は主要転帰項目である死亡または歩行不能の群間差を非常に高い検出力をもって評価できるよう設計された。95%信頼区間を見てみると、制限輸血法によって死亡または介助なし歩行不能のいずれかのリスクが最大3.7%増加するという結果が得られた。制限輸血群では35%の患者が複合転帰項目である死亡または介助なし歩行不能のいずれかに該当した。本研究の院内転帰についての検出力は、主要転帰の検出力よりは低かった。院内転帰について我々が得たデータは、院内発症の急性心筋梗塞、不安定狭心症または死亡の制限輸血による絶対リスクの変化が3.3%増から1.6%減の範囲内であることを示している。

本研究で得られた結果は、Transfusion Requirements in Critical Care(TRICC)試験の結果と大部分が一致する。TRICC試験では集中治療患者を対象に、輸血開始閾値をヘモグロビン濃度7g/dLにした場合と10g/dLにした場合とを比較し、転帰に有意差がないという結果が示された。だが、本研究ではTRICC試験と異なり、非制限輸血群における心筋梗塞または鬱血性心不全の発生率上昇は認められなかった。さらに、観測研究では輸血された患者の方が輸血されなかった患者よりも死亡率が著しく高いという知見が示されているが、本研究ではこのような結果は得られていない。選択バイアスを排除して輸血の是非を評価するには無作為化比較対照試験を行うしかない。

まとめ

心血管系疾患リスクの高い患者において非制限輸血を行っても、制限輸血と比較し60日後の死亡または歩行不能に該当する患者の割合は減らず、入院中の合併症発生率も低下しない。本研究で得られた知見を踏まえると、心血管系疾患の既往または危険因子がある高齢患者であっても、貧血による症状が出現するかヘモグロビン濃度が8g/dLを下回るまでは輸血を控えた方がよいと考えられる。

教訓 心血管系疾患のある高齢患者であっても貧血による症状が認められなければ、赤血球輸血の閾値はHgb<8g/dLとしてもよさそうです。
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