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術後ハイリスク患者に対する制限輸血と非制限輸血の比較~方法① [critical care]

Liberal or Restrictive Transfusion in High-Risk Patients after Hip Surgery

NEJM 2011年12月29日号より

米国では年間に1700万単位以上の赤血球製剤が製造され、このうち1500万単位が実際に投与される。外科系患者や高齢患者では、輸血製剤が使用されることが少なくない。だが術後輸血の適応は十分に検討されているとは言えず、未だに甲論乙駁の状態である。この領域における大半の臨床試験は規模が小さい。成人集中治療患者を対象とした検出力に不足のない臨床試験では、制限輸血によって30日後死亡率が有意でないものの低下することが明らかにされた。この試験では制限輸血群の死亡率は18.7%、非制限輸血群では23.3%であった。しかし、心疾患患者において制限輸血が機能回復の程度や心筋梗塞のリスクに及ぼす影響についてはこれまで調査されていない。そこで我々は、輸血閾値が高い(Hgb <10g/dLで輸血)場合の方が輸血閾値が低い(Hgb<8g/dLまたは貧血による症状があれば輸血)場合よりも機能回復が良好で合併症・死亡率が低いという仮説を検証すべく、Transfusion Trigger Trial for Functional Outcomes in Cardiovascular Patients Undergoing Surgical Hip Fracture Repair (FOCUS)と銘打った臨床試験を行った。

方法

2004年7月19日から2009年2月28日の期間に米国およびカナダに所在する47か所の研究実施施設で患者を登録した。電話による追跡調査は2009年5月4日に終了した。大腿骨骨折に対する初回手術が予定され、心血管系疾患があることが臨床的に明らかであるか、もしくはその危険因子を複数保有し、術後3日目までにヘモグロビン濃度が10g/dL未満に低下した50歳以上の患者を対象とした。原プロトコルでは心血管系疾患(虚血性心疾患の既往、心筋梗塞が過去にあったことを裏付ける心電図所見、鬱血性心不全または末梢血管疾患が現にあるか既往がある、脳血管障害またはTIAの既往)がある患者のみを対象とすることになっていた。2005年12月に登録基準要件を緩和し、対象患者を増やすことになった。この際に以下のいずれかの心血管系疾患危険因子を保有する患者も対象として加えることになった:高血圧、糖尿病または高脂血症の既往または治療中、総コレステロール200mg/dL以上またはLDL 130mg/dL以上、煙草を吸っている、クレアチニン2.0mg/dL以上。

除外基準は以下の通りとした。大腿骨骨折前に介添えなしに歩くことができない、輸血拒否、多発外傷(大腿骨以外の外傷に対する手術が穿孔して行われているか、今後予定されている場合)、癌による病的骨折、無作為化割り当てに先行する30日以内のAMI発症、反対側の大腿骨骨折で本試験にすでに登録されている、貧血による症状がすでにある(例えば虚血による胸痛)、割り当て時点における活動性出血。

治療群の割り当てと追跡調査
対象患者を非制限輸血群もしくは制限輸血群に無作為に割り当てた。データ集計センタのスタッフが各施設の無作為化計画を用意した。無作為化割り当て後は、各実施施設の研究スタッフ、担当医および患者のいずれもが、どちらの群に割り当てられたかを知った上でこの臨床試験が進められた。

非制限輸血群の患者にはヘモグロビン濃度が10g/dL以上となるように赤血球製剤が1単位ずつ投与された。赤血球製剤を1単位投与するごとにヘモグロビン濃度を測定することが義務づけられ、10g/dLを下回っていればさらにもう1単位赤血球製剤を投与することとした。

制限輸血群の患者には、ヘモグロビン濃度が8g/dLを下回り担当医が輸血が必要だと判断した場合か、もしくはヘモグロビン濃度に関わらず貧血による症状が見られる場合にのみ赤血球輸血を行った。輸血の適応と考えた症状または徴候は、心臓に起因すると目される胸痛、鬱血性心不全および輸液に反応せず貧血以外に原因が思い当たらない頻脈もしくは低血圧である。赤血球輸血を行う際は1単位ずつ投与し、投与後には症状または徴候の有無を再評価した。認知症の臨床診断が下されている患者に対しては、症状を正確に訴えることができないおそれがあるためヘモグロビン濃度8g/dLを下回ったら輸血することにした。

入院中のヘモグロビン濃度の測定は、無作為化後第1、2、4および7日に実施した。臨床的に必要であればその他の時点でも随時ヘモグロビン濃度を測定した。退院日もしくは割り当て30日後のどちらか先行する日まで、割り当てられた方針に沿って輸血が行われた。出血が認められたり、担当医が緊急輸血が必要だと判断したりした場合には、ヘモグロビン濃度を測定せずに輸血してもよいことにした。

研究の実行には関わらず、割り当て群について関知していない研究統括センタ所属看護師が、無作為化割り当てから約30日後および約60日後に患者またはその代理人に電話し、退院後の転帰について確認した。電話に出られる患者については看護師が患者と直接話し、認知機能に異常があるか電話で話せない患者については代理人と話した。

教訓 成人ICU患者で非制限輸血(Hgb<10g/dLで輸血)と制限輸血(Hgb<7g/dLで輸血)を比較したところ(TRICC研究)、30日後死亡率は同等で、有意ではないものの制限輸血の方が死亡率が低いという結果が得られています (18.75% vs. 23.3%, P= 0.11)。このFOCUS研究では心血管系疾患の既往または危険因子がある患者における大腿骨骨折術後の制限輸血(Hgb<8g/dLかつ輸血が必要だと判断された場合もしくはヘモグロビン濃度に関わらず貧血による症状が見られる場合に輸血)と非制限輸血(Hgb<10g/dLで輸血)の比較検討が行われました。
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