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TAAAの麻酔~術中管理② [anesthesiology]

Case Scenario: Anesthetic Considerations for Thoracoabdominal Aortic Aneurysm Repair

Anesthesiology 2011年11月号より

大動脈遮断による血行動態変化

大動脈遮断に伴って生ずる血行動態変化のうち最も際立つのは、後負荷増大による血圧上昇である。一般的には遮断部位が近位であるほど、血圧の上昇幅は大きくなる。腹腔動脈上での遮断によって、平均動脈圧、左室充満圧および左室収縮/拡張終末期容量が有意に増大する。ニカルジピン、ニトログリセリン、ニトロプルシッドand/or吸入麻酔薬の血管拡張作用が、大動脈遮断による後負荷増大を緩和するのに用いられる。腹腔動脈上での大動脈遮断を行うと、50%以上の症例で左室壁運動異常や左室拡張障害が出現する。また、静脈の受動的収縮(recoil)やカテコラミン放出も認められ、いずれも静脈容量の低下につながる。以上の結果、大動脈遮断部位以下の諸臓器およびその他の血管床から血液が駆出され前負荷が増加し、結果的に心拍出量が増える。大動脈遮断が長時間に及ぶと、体血管抵抗と心拍出量は低下する。

腹腔動脈上大動脈遮断によって前負荷および後負荷が増大すると、心筋収縮力と酸素需要が増える。心臓はこれに反応し、冠動脈血流を増やして心筋への酸素供給量を増やす。したがって、大動脈遮断による血圧上昇は慎重に管理すべきではあるが、血圧を低下させすぎると冠動脈、脳、脊髄、腎and/or腸管の血流が低下するため注意が必要である。左心バイパスを使用しない症例では、大動脈遮断部位以遠の血圧は遮断部位近位の血圧によって直接的に規定されるので、なおさら血圧を下げすぎないよう留意しなければならない。大動脈遮断中は、遮断部位以下の血流は側副血行路によってまかなわれ、心拍出量というより主に血圧に依存して血流量が決まる。したがって、左心バイパスを使用しない場合は、終末臓器の血流が維持されるように大動脈遮断部位近位および遠位の血圧を適切に管理しなければならない。Johnstonらは大動脈遮断時から15cmH2OのPEEPをかけると血圧上昇が抑えられ、前負荷の増大にもうまく対応できるため、遮断解除後の一回拍出量と血圧が良好に保たれることを明らかにした。

大動脈遮断解除による血行動態変化

遮断解除に伴って生ずる典型的な血行動態の異常は、体血管抵抗と動脈圧の低下である。遮断解除による血圧低下はいくつもの原因によって起こる。血液が下肢へ再分布すると、中枢の血管内容量は低下する。遮断部位遠位は遮断中に組織血流が低下して血管を拡張させたり心筋を抑制したりする代謝産物(乳酸など)が蓄積し、遮断解除に伴い全身に放出される。大動脈遮断解除後の低血圧は、輸液負荷、昇圧薬の投与、代謝異常の迅速な是正、遮断時間の短縮、および緩徐な遮断解除によって緩和することができる。代謝性アシドーシスを治療するため炭酸水素ナトリウムを投与することがあるが、呼吸性アシドーシスを伴っているときには慎重を期さなければならない。腎および脊髄の血流を確保するには、一般的には、遮断解除後は血圧を平常時よりも高く維持するべきである。しかし、胸腹部大動脈瘤の手術は縫合部位がたくさんあり、そこから出血するおそれがあるため、この点を考慮して最適な目標血圧を決定しなければならない。特に、マルファン症候群などで大動脈組織が非常に脆弱な患者では、このことが重要な注意点である。

教訓 大動脈を遮断するとはじめは前負荷と心拍出量が増えますが、次第に体血管抵抗が低下し心拍出量は減ります。遮断時にPEEPをかけておくとこの変化が緩和され、遮断解除時のSVと血圧が良好に保たれると報告されています。一般的には、遮断解除後は血圧を平常時よりも高く維持しなければなりません。しかし、血圧が高いと縫合部位から出血しやすくなるため、この点を考慮して最適な目標血圧を決定します。
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