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TAAAの麻酔~術前管理 [anesthesiology]

Case Scenario: Anesthetic Considerations for Thoracoabdominal Aortic Aneurysm Repair

Anesthesiology 2011年11月号より

術前管理

胸腹部大動脈瘤切除術にはリスクや合併症がつきものであるため、術前評価を徹底的に行うことが不可欠である。心臓、呼吸器、腎および神経系に関連する合併症が起こるリスクが非常に高いため、これらの臓器については特に注意を払って評価しなければならない(table 1)。胸腹部大動脈瘤の拡大に伴って出現する症状は、背部痛、心窩部痛、左反回神経麻痺による嗄声、気管・気管支の直接的圧迫による息切れ、咳および血痰などである。

心臓
胸腹部大動脈瘤の周術期心臓死亡または重症合併症の発生率は約10-15%か、それ以上である。近位大動脈遮断が血行動態におよぼす大きな負担や、体内水分の移動や出血による生理学的変化は、心臓によくない影響を与える。Hafezらは、胸腹部大動脈瘤の手術を受ける患者の約30%が術後24時間以内に何らかの心機能異常を呈することを明らかにした。また、腹腔動脈より上で大動脈を遮断する胸腹部大動脈瘤手術が行われた症例では、遮断解除から8時間後および24時間後のトロポニンT(心筋傷害のマーカ)が有意に上昇していることも分かった。Fayadらは経食道心エコーを用い、胸腹部大動脈瘤手術の際には患者の三分の二に、大動脈遮断に伴う急性拡張障害が認められることを示した。以上から、冠動脈疾患、弁膜症、および心機能の全貌を術前に評価し、可能な限り心臓に関する問題を術前に是正しておくべきである。


胸腹部大動脈瘤術後の死亡および重症合併症の原因として最も多いのは呼吸不全である。胸腹部大動脈瘤のうちCrawfordⅠ、ⅡおよびⅢ型の手術では分離肺換気が不可欠であるため、術前に呼吸機能を注意深く評価しなければならない。動脈瘤が左主気管支を偏位させることがあり、胸部X線写真や胸部CTからダブルルーメン気管支内チューブの留置に関わる重要な情報が得られる。喫煙習慣を継続している患者に対しては、少なくとも術前4週間は禁煙するよう指示しなければならない。気管支拡張薬に対する反応が良好な患者では、術前に肺機能を改善するためそのまま手術まで使用する。拡散能不良または重症COPDの患者では、一側肺換気が不能であると考えられるため人工心肺下に胸部の操作を行わなければならないかもしれない。右反回神経の異常の有無は術前に評価しておかなければならない。胸腹部大動脈瘤の手術の際には左反回神経を傷つけてしまうことが間々あり、両側の反回神経に障害があると抜管後に呼吸トラブルが生ずるかもしれないからである(fig. 3)。


開胸開腹手術による胸腹部大動脈瘤根治術を受ける患者では、術前の腎機能低下は術後腎不全および死亡の独立予測因子である。したがって普段の腎機能を術前によく評価しなければならない。胸腹部大動脈瘤が予定されている患者のうち13-24%に、術前から腎機能低下(血清クレアチニン値1.5mg/dL以上)が認められる。その主な原因は、高血圧、糖尿病および動脈硬化である。胸腹部大動脈瘤は、大動脈のうち腸管や腎臓へ流入する動脈が分岐する部位を含んでいるため、腎血管の異常が伴うことが多い。胸腹部大動脈瘤の術後急性腎不全の発生頻度は7-40%で、独立予測因子は手術の緊急度、術前の腎機能異常、大動脈遮断時間の延長および高齢である。

画像診断
術式を決めるにあたり、大動脈についての詳細な画像診断は必須である。具体的にはCT、動脈造影、MRAなどを行う。ヨード造影剤を使用する検査が必要であれば、すべて術前に済ませておかなければならない。造影剤による腎機能障害が懸念されるからである。もともと腎機能が低下している患者では、造影剤腎症の発症や、腎機能のさらなる悪化を防ぐのにN-アセチルシステインの投与が有効である可能性がある。動脈瘤の解剖と主な分枝動脈についての評価を術前に行うことは極めて重要である。CT血管造影およびMR血管造影で、大根動脈(arteria radicularis magna;ARM)、別名Adamkiewicz動脈の走行が分かるのは、患者の50-80%に過ぎない。Adamkiewicz動脈の走行が術前に分かっていて術中に再建された場合の術後対麻痺のリスクは5%だが、術前に走行が分からなくて再建も行われなかった場合の術後対麻痺のリスクは50%にものぼるため、術前にAdamkiewicz動脈の走行を同定できるかできないかは重要なポイントである。

教訓 胸腹部大動脈瘤術後の死亡および重症合併症の原因として最も多いのは呼吸不全です。術中に左反回神経を傷つけてしまうことがあるため、もともと右反回神経麻痺がある場合は抜管困難になるおそれがあります。胸腹部大動脈瘤の術後急性腎不全の発生頻度は7-40%です。
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