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TAAAの麻酔~症例呈示 [anesthesiology]

Case Scenario: Anesthetic Considerations for Thoracoabdominal Aortic Aneurysm Repair

Anesthesiology 2011年11月号より

胸腹部大動脈瘤(TAAA)切除術は外科医にも麻酔科医にも困難で複雑な任務を強いる。昔から胸腹部大動脈瘤切除術の死亡率および重症合併症発生率は高く、執刀医および施設によって成績が左右される。しかし、この十年のあいだに、基礎研究、手術手技および周術期管理の向上によって合併症発生率は大幅に低下した。本稿では、胸腹部大動脈瘤切除術を受ける患者の周術期管理についての最新の知見を紹介する。


症例報告

69歳白人男性。直径7.6cmのCrawfordⅡ型胸腹部大動脈瘤に対する手術が予定されている(fig.1)。既往歴は以下の通りである。1998年Ⅰ型大動脈解離破裂のため手術、1999年上行大動脈グラフトの仮性動脈瘤のため弓部大動脈置換術を行いエレファントトランク留置(エレファントトランクとは、弓部置換のときにグラフト遠位部を下行大動脈内に吹き流しのように挿入し、下行大動脈瘤の手術を将来行うときにやりやすいようにする方法)、2001年腹部大動脈瘤切除術、その他、高血圧、洞不全症候群(ペースメーカを留置されている)、巨細胞性動脈炎および右腎萎縮による慢性腎不全がある。今までに行われた手術はすべて別の病院で行われた。術前検査の結果はいずれも正常範囲内であった。

ASAの標準モニタに加え、右橈骨動脈に動脈圧ライン、頭部にNIRS(近赤外線分光法による脳酸素飽和度のモニタ)およびBISを設置した。当初の酸素飽和度は、右半球が70%、左半球が72%であった。ペースメーカは非同期モードとし、心拍数は80bpmに設定した。全身麻酔はエトミデート、フェンタニルおよびロクロニウムで導入し、麻酔維持にはイソフルランを用いた。導入後に左用35Frダブルルーメンチューブを左気管支内に挿入した。右内頸静脈に9Frのマルチルーメンカテーテルと肺動脈カテーテルを留置した。経食道エコーのプローブを挿入した後、患者を右側臥位とし、脳脊髄液ドレナージのカテーテルを腰椎椎間から留置した。抗線溶作用を得るためアミノカプロン酸を投与した。Surgical Care Improvement Projectのガイドラインに従い、執刀に先立ちバンコマイシンを投与した。

左後側方胸腹連続切開が加えられた。執刀から大動脈遮断までの平均動脈圧は65-80mmHgであった。体温を維持するための方策を講ずることなく下がるにまかせた。大動脈遮断直前の体温(鼻咽頭プローブで測定)は約32.2℃であった。腎血流を保つためマンニトール25gを投与した。左心バイパスを開始するまえにヘパリン1mg/kgを投与した。左心バイパスを行うにあたり、左下肺静脈および胸部下行大動脈にカニュレーションした。平均動脈圧が約80mmHgとなるように人工心肺の流量を1.5-2L/minのあいだで調節した。左総頸動脈と左鎖骨下動脈のあいだで大動脈遮断を行った。左鎖骨下動脈はそれのみで別途遮断した。大動脈遮断による後負荷増大を緩和するためニカルジピンを投与した。大動脈遮断中は、脊髄血流を低下させないようにするため平均動脈圧を85-90mmHgに維持した。髄液を間欠的にドレナージして、髄液圧を15mmHg未満に保った。中枢側の吻合が終了したので、左鎖骨下動脈の遮断を解除した。近位側の大動脈遮断部位はグラフトに移動した。これによって左鎖骨下動脈の血流が再開した。左心バイパスを停止し、動脈瘤を切開した。肋間動脈(T7-T9)、腹腔動脈起始部および上腸間膜動脈の分枝はそれぞれ島状吻合によって再建した。左腎動脈は10mmのダクロングラフトを用いて再建した。右腎は高度に萎縮しているため、右腎動脈は再建しなかった。大動脈遮断中は、乳酸リンゲル液、マンニトールおよびメチルプレドニゾロンを成分とする冷たい灌流液を左腎へ間欠的に灌流させ腎を冷却した。大動脈遮断部位は徐々に遠位へと移動させ、肋間動脈、腸管、下肢、左腎の血流をその度に再開させた。「非保護」虚血時間(左心バイパス終了後の虚血時間)はそれぞれ、20分、38分、38分、54分であった。大動脈遮断解除および肋間動脈血流再開の約10分前から、ノルアドレナリンの投与を開始し平均動脈圧が80-90mmHgとなるように投与量を調節した。同時に、ヘモグロビン濃度が10g/dLを上回るように濃厚赤血球製剤を2単位投与し、血管内容量を維持するため5%アルブミンを使用した。また、遮断解除による代謝異常を是正するため、塩化カルシウムおよび炭酸水素ナトリウムを投与した。

左腎の血流が再開するのと同時に、フロセミドとインジゴカルミンを投与した。その12分後に青く着色した尿の流出を確認した。大動脈遮断から左腎血流再開までのあいだに、患者の体温は30.5℃まで低下した。ヘパリンをプロタミンで拮抗した後に、復温を開始した。その方法は、室温上昇、加温した輸液製剤の使用、加温した生食による術野洗浄および温風式加温装置の使用である。ノルアドレナリンを用いて平均動脈圧を80-90mmHgとし、血漿中のイオン化カルシウム濃度が正常範囲内に保たれるように塩化カルシウムを間欠的に投与した。術中輸血量は、濃厚赤血球5単位、新鮮凍結血漿6単位、血小板20単位およびセルセーバー血1250mLである。輸液量は5%アルブミン1500mLと晶質液2000mLである。尿量は2500mL、出血量は3000mLであった。術後は集中治療部に収容し、プロポフォールで鎮静を行った。

集中治療部入室後の患者の血行動態は安定しており、神経学的所見に異常はなく、強心薬は不要であった。平均動脈圧は80-90mmHg、髄液圧は15mmHg未満であった。術後第一日に抜管し、髄液ドレナージを中止した。神経学的後遺症は認められなかった。

教訓 TAAAの麻酔についての記事です。この症例では、腎保護のためにマンニトールを投与し、腎臓を局所的に冷却する方法を行っています。ルンバールドレナージ用のカテーテルは麻酔導入後に留置しています。
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